一般的に「福祉」というと「児童・高齢者・障がい者など支援が必要な人に対して社会的、組織的に援助を行うこと」といったイメージがあるでしょう。狭義ではその通りですが、実は「全国民の幸福と豊かさを保証しよう」という理念を表す言葉でもあります。このより広い意味での「福祉」の観点から、私たちが取り組む障がい者就労支援の活動に焦点を当てて振り返ってみたいと思います。
NPO法人信州能力開発ネットワークは、須坂市に拠点を置いて障がい者の就労・生活支援を行う団体です。「人を育み世界をつくる」という理念のもと、BASIS Biz(就労継続支援A型)、greenBASIS(就労継続支援B型と自立訓練)、ベイシスホーム須坂(グループホーム)の3施設を運営しています。BASIS BizとgreenBASISでは地域の企業や農家などから仕事を受託し、障がいのある利用者が業務にあたっています。
ある農家さんから依頼があった際「障がい者がやるんだからこのぐらいの委託料で」と言われたことがあります。依頼主は「障がい者」であることが第一で、「どの程度仕事ができるか」を後回しにしたのです。丁重にお断りしました。
私たちが支援をする上で最も大切にしているのは、「“障がい者”であることを理由に責任を放棄しないこと」です。仕事を遂行する上で、障がいがあることで一般的な人と比べて難しいことも多くあります。しかし、「障がい者だからこの程度でしょうがない」で終わらせることはあり得ません。「2人ならどうか」「別のやり方はないか」と思案と試行を尽くすことが大切です。仕事の質、商品の質に責任を持つべきです。理由は単純で、そこには信用して仕事を依頼してくれる相手や、商品を購入して喜んでくれるお客さんがいるからです。「福祉」というフィルターを通すことでその単純なことが見えなくなり、それが障がい者理解の歪曲(わいきょく)につながっていると感じることがあり、とても残念に思います。
私たち支援者は、利用者が豊かに生きるための支援という役割と同時に、その人が生きていく社会の豊かさに対しても責任を負っています。障がい者は支えられるだけの存在ではなく、地域社会を支えていく力があると信じましょう。社会全体の福祉のために。
執筆: NPO法人信州能力開発ネットワーク理事長
初出 : 長野市民新聞 NPOリレーコラム「空SORA」2023年1月21日掲載