「美しいものに向かう教育を」池田聡子   

小1のH君は『8ー8=8』と答えてしまう。「どうして?」と聞くと「あのね、お部屋に羊さんが8匹いるの。それで8匹出ていっちゃった」という返事。「いいね! それで?」と聞くと「廊下に8匹いるよ」「なるほど。それで『8ー8=8』なんだ!」おかしくて笑っていたらH君が言った。

「僕のおじいちゃんも死んじゃったけど、お空にいるよ。だから0じゃないよ」。
どの子も素敵な世界を持っている。大人から見たら“困ったこと”の奥にその子の素晴らしい世界が広がっていることがある。子ども達一人一人のその世界に出会いたくて小さな学校を始めた。2011年春のことだ。豊かな自然体験ができるように、飯綱町を選んだ。

2021年秋祭りの演劇公演。創作劇「みんなの国冒険物語3」


みんなの学校には、いろんな子がやってくる。時には胸に痛みを抱えた子もやってくる。“あなたは素敵だよ”というメッセージが伝わると、その子はその子らしい魅力を見せてくれるようになる。それが嬉しくてたまらない。

指がうまく動かない子が1時間編み物をがんばった後で顔を輝かせてこう言った。「見て!4目も編めたよ!」1時間で4目。でもその喜びはとてつもなく大きい。それを共にできる私はなんて幸せなのだろう。子ども達は私の先生だ。何が本当の幸せなのかを私に教えてくれる。子ども達と過ごす日々は、私から余分な物を取り去ってくれる。子ども達の心の声に耳を傾ければ、私達がやるべきことが見えてくる。“みんなで美しいものに向かうこと”学校は、そういう場であるべきだ。

みんなの学校では、毎年小中学生が力を合わせて劇を創り公演している。演劇という芸術に向かう中で、どの子もがその子らしい歩みで成長する。「みんなで劇をやるのが楽しいから、また学校に行けるようになったんだよ。それで苦手な教科の勉強もチャレンジ出来るようになったんだよ。私すごいでしょ!」かつて不登校だった子の言葉だ。競争で得られるのとは別の、温かくて確かな自信がそこにある。この熱はこれからもずっと、その子の心を温め続けるだろう。

家庭・学校・フリースクール…全ての教育の場が、美しいものによって美しいものを引き出す場であってほしいと心から願っている。

文責:小中学生のための学び舎 みんなの学校 代表 池田 聡子(いけだ さとこ)
初出 : 長野市民新聞 NPOリレーコラム「空SORA」2022年1月22日掲載