持続可能な農業を長野から発信ー国際シンポジウム

2019年6月2日(日曜日)、長野市勤労女性会館しなのきで開かれた「信州発!持続可能な農業国際シンポジウム」。国内外から多彩なゲストが集い、長野から有機農業の波紋を打ち出そうと、世界で広がるアグロエコロジーの取り組みや農業事情などを聞きました。

全国各地から集まった参加者が会場を埋めました

食と農から社会を転換できる

総合地球環境学研究所で持続可能な食の消費と生産を実現するライフワールドの構築をめざしているFEASTプロジェクト・リーダーであるスティーブン・マックグリービー准教授は、「持続可能な社会を実現するためには、大量生産・大量消費・大量ロスという現在の構造を、新しいシステムへ変えなければならない。工業型の農業、商品としての食、生物資源と遺伝子の衰退、食文化の消失を、自然と調和した地域循環に変える。SDGs(持続可能な開発目標)には食と農に関するゴールが8つある。食を中心に社会を考え、食と農から社会を転換する。環境的経済的に持続可能な信州を日本と世界のモデルにしたい」と期待を寄せました。

なぜ、いま時代はアグロエコロジーなのか

基調講演は、農業と自然環境の調和をめざすアグロエコロジーの第一人者でアメリカ・カリフォルニア大学のミゲール・アルティエリ名誉教授。長年培われてきた農民の伝統的な知識をもとに、各国で実践されている生物多様性を活用した混植栽培や輪作などの事例と、アグロエコロジーの原則に基づく取組を紹介しました。

世界中の小農(小規模な農家)は、全世界の農地の25~30%しか使っていないが、全世界人口の50~75%にあたる食料を生産している。有機的な栽培が、有機物を蓄積し、多様性が増していく。小農は、石油や農薬などの外部資材に頼らなくても、多品目の混植栽培や輪作、緑肥、家畜や養魚などを組み合わせ、生物的な多様性を活用している。アグロエコロジーは原則であり、それぞれの地にあった方法があるはず。

スライドで各国のアグロエコロジー現場を紹介したミゲールさん

世界の農業は大規模から家族農業へ

愛知学院大学の関根佳恵准教授はビデオメッセージで、国連の「家族農業の10年」の取組とフランスでの有機農産物での学校給食などを紹介しました。

世界では、地球温暖化の危機感とSDGsを背景に、大規模単一の工業的な農業から脱却し、小規模で家族的な有機農業が推進され、今年から国連の「国際家族農業+10(家族農業の10年)」がスタートしている。

フランスでは学校給食を2022年までに50%を有機か環境保全型の農産物にかえるとし、地方都市のクルトンではすでに100%になっている。追加的な負担を自治体が負い、SDGsの目標達成に向けて具体的に動き出している。SDGs未来都市に認定された長野県にも可能性はある。持続可能な農と食のモデルになれる。学校給食の公的化に期待する。

女性がメインのパネルディスカッション

女性が見るこれからの食と農

パネルディスカッションは「女性の視点から見た命を育むこれからの食と農業」をテーマに、4名の女性が思いを伝えました。

ラテンアメリカにおける持続可能な農村開発を研究するクララ・ニコルス教授。「緑の革命」が提供した外部資材に依存した借金まみれの農業の仕組みから自立するためにアグロエコロジーへの転換が進んでいる。アグロエコロジーには、自立を確立する力と知恵、技術があり、地域の共同が人々の助けになっている。

アフリカでのボランティア経験で「貧困は先進国がつくっている」と気づき、自ら有機農業をはじめた斎藤えりかさん。農業は子育てと同じで「育てたい」という思いがあり、農業をしているだけで自分は満たされていると感じる。

町の学校給食をオーガニックに変えたい松野亮子さん。よいものを食べることは人権であり、表示なき遺伝子組み換え作物を知らずに食べている日本。国産であっても農薬漬けでは絶望しか感じない。

市民の動きが報じられない世界でジャーナリストとして調査行動し、真実を伝える堤未果さん。お金がすべての価値基準になり、なんでも値札が付けられている。経済活動は、もっと大規模に、もっと効率的に、もっとスピーディにと「今だけ、金だけ、自分だけ」しか考えていない。すぐに結果が出ないものは切り捨てられる。農薬の主成分グリホサートが原因で癌になったという裁判で、製造元のモンサントが敗訴し、株価が急落した。アメリカのスーパーが、オーガニックに変わった。市民にできることがある。与えられるだけの受け身の消費者から、買い物をする時に意思を持った市民になることで、社会はかわる。

国際社会は、家族農業・小農・アグロエコロジーへと価値観を変えています。経済的な短期の決算ではなく、より遠くの未来を見ようとしています。持続可能な社会をめざす世界の動きを知り、子どもたちのためにもまずは「意思をもって選ぶ市民」になりたいと思いました。

(文責:吉田百助)

ナガクルは国連が提唱する「持続可能な開発目標」SDGs(エスディージーズ)に賛同しています。この記事は下記のゴールにつながっています。