一般社団法人ながの移動販売つなぎ局(以下「つなぎ局」)が主催する、キッチンカー事業者などを対象とした「食支援ラボ」が2025年7月14日、長野市の新小路ホール(長野市東町142-2SHINKOJI北棟1F)で開かれ、キッチンカー事業者をはじめ、行政や生協、県立大学、N-NET(長野県災害時支援ネットワーク)関係者ら約20名が参加しました。
これまで「災害時の食支援勉強会」として2024年から2カ月に1回のペースで開かれ、今回で5回目。名称を「食支援ラボ」に改め、従前から続けてきたキッチンカー事業者同士の情報交換やノウハウの共有をはじめ、関係団体との情報共有や実際の避難訓練で得られた「被災者に寄り添った食支援」を考えています。




今回のテーマは、「つなぎ局災害支援班のこれから」。
災害時のキッチンカーによる食支援は、国で位置づけや許可の扱いが明確化されるなど災害現場での活動がますます期待されています。
6月には、発災時にキッチンカーやトレーラーハウス等の災害対応車両を被災自治体に迅速に提供できるようにする国の「災害対応車両登録制度」の運用が開始されました。いざという時に被災自治体が国に登録されたデータベースを見て、登録者へ支援を要請する仕組みです。
しかし、実際の支援にあたっては個々で対応することが難しいことも多く、現地で円滑に活動するために「調整法人」がマッチングして関係者のネットワークで被災地に寄り添うことになっています。
災害対応車両登録制度ができた背景
2024年の能登半島地震で、キッチンカー、トレーラーハウス、トイレカー、ランドリーカー等の災害対応車両が、温かい食事や快適なトイレの提供等を通じた避難生活環境の改善、被災者に対する良好な居住環境の提供、他の自治体からの応援職員に対する宿泊場所の提供等の観点で有効に活用されました。
一方、これらの災害対応車両については、その所在情報等を行政側で事前に十分に把握できていなかったため、その活用に際して関係事業者に所在情報や被災自治体への提供可否等を都度、調査・確認せざるを得ない、といったことがありました。
このため内閣府では、今後発生する災害時における、より円滑な被災者支援等の実現に向け、「令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応の在り方について」等を踏まえ、災害対応車両等を平時から登録し、その内容をデータベース化しておくなど、被災自治体のニーズに応じて迅速に提供するための仕組みを構築することとしました。
長野県では「つなぎ局」を調整法人として現地支援へ
つなぎ局代表理事の村上裕紀子さんは「つなぎ局のウェブサイト内に『災害支援班』のページを設けて、国の基準に合わせて災害対応車両等を登録できるフォーム」を設ける」と、これからの予定を話しました。(2025年7月現在は準備中)。
「非常時になにができるかを登録してもらい、個別で対応できないことがあればチームとして補うよう調整する。場合によっては、車両だけや人手だけが望まれるケースも考えられるので、関わる人が多いほどよい。データベースを使うか使わないかは自治体の判断だが、いままではどこへ連絡したらよいのかもわからなかった。データベースができることで災害対応車両等を探しやすくなる。また、地域で行われる防災訓練などに呼ばれるなど、平時から関係性をつくる一助になればよい」と言います。
長野県立大学生から2つの報告と災害時のキッチンカー利用に役立つ冊子を紹介
長野市戸隠でキッチンカー利用者にアンケートを実施した学生は、「ふだん食べられないもの」や「夕食のおかず」として、月に1回来るキッチンカーがとても喜ばれていること。また「これからも来てほしいと、多くの住民が希望を持っていることがわかった」と報告しました。
続いて、東京都・埼玉県・千葉県に店舗を展開する生活協同組合コープみらいと連携して「災害時の食支援を考える学習会」を企画している学生は、「8月に千葉県内のコープ店舗へ出向いて、実際に学習会を開くことになった」と報告しました。


また、県立大学では稲山貴代教授を中心に、災害支援におけるキッチンカーのメリットをまとめた冊子を編集中であると報告がありました。
行政にはキッチンカー事業者と連携することで大きなメリットが得られることがわかるように。キッチンカー事業者には、管理栄養士の立場から考えた健康的な食レシピや、配慮が必要な人への食事提供などの情報を掲載し、支援の時に提供する食事の献立の参考になるように。
学生が考えた「被災地で、キッチンカーで提供するメニュー」を実際に調理してレシピと写真を掲載するなど工夫を重ねて、年度内の発行をめざしています。
支援の輪が広がるように交流を深める懇親会
能登半島地震の際に、長野県からの要請を受けて、あるいは個人で支援に出向いたキッチンカー事業者からの声を紹介します。
〇能登半島地震の時は、いてもたってもいられなかった。すぐにでも現地へとんで行きたかったが、車でどう行けるのかもわからなかった。現地の人たちも情報がとれなかったので、情報をつなぐ後方支援が必要だと思った。
〇能登へは出発寸前まで経路を探していた。どのルートが通れるのか、ガソリンはどこで入れられるか、水を手に入れるにはなど、どうしたらよいか分からないことばかりだった。
〇能登では排水ができず、生ものが使えなかった。支援品として届いた精米もとぐことができず使えなかった。無洗米であれば使えたのに残念。
〇提供食数は現地へ行ってみないとわからない。事前に「目安で〇食」と言われていても、実際はまったくあてにならなかった。食材の調達も、いろいろな関係者のネットワークでつなぐことが必要。
〇災害支援といっても無償ボランティアでは限界がある。交通費や食材費を県が出してくれる有償ボランティアであれば継続して支援でき、幅も広がる。
〇仕事をしながら支援するには、コロナ禍にあった休業補償があればいい。
参加者からは、「ここへ来ると、いろいろな立場の人たちと出会うことができて、うれしい。いままでどおりだったら出会えなかっただろう人たちばかりで、なにかと勉強になる」、「災害時にどう支援できるか、自分だけでは知識が足りない。勉強会に参加すれば、なにかできるかもと思った」などの感想がありました。
また、中山間地をまわっているキッチンカー事業者は、「営業の告知方法と需給のマッチが課題。住民自治協議会や公民館の協力があれば助かる」と希望を伝えました。



つなぎ局に登録しているキッチンカー事業者は、約90(2025年7月現在)。「たくさんの人に美味しさを届けたい」事業者と、「空いている場所を生かしてにぎわいを作り出したい」といったスペース提供者をつなぐほか、3月21日にはN-NETが主催したイタリア式避難所運営システムの実動訓練に参加し、災害時と同様の炊き出し訓練を重ねています。
【関連記事】イタリア式避難所で災害関連死ゼロをめざす―長野県諏訪市で全国初のこころみ
次回の食支援ラボは9月。開催案内や問い合わせは、つなぎ局のサイトをご覧ください。
一般社団法人ながの移動販売つなぎ局
所在地:長野県長野市東町142-2 SHINKOJI 北棟1F(ロジェ・ア・ターブル内)
HP:https://tsunagikyoku.com
<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助



