ファシリテーションの技術を学び、さまざまな活動に活かそうという研究会が長野で始まりました。有志が呼びかけ合ってZoomで交流しながら「ソーシャル・ファシリテーション」の神髄を身につけようとの試みです。
第2回研究会が2025年1月14日、9名の参加で行なわれました(Zoomなので参加地域は限定していない)。テキストは『ソーシャル・ファシリテーション』(徳田太郎・鈴木まり子著、北樹出版)で、この日は担当者がテキストに書かれている「ソーシャル・ファシリテーションとは何か」を自分の言葉でかみ砕いて説明。それを受けて参加メンバーが感想を出し合い理解を深めました。
注意 : 本稿は書籍『ソーシャル・ファシリテーション』の内容を踏まえた記述をしていますが、特別に著者の許可を得ています。無断での引用・転載はお断りします。
人と人とのつながり・関係を「後押し」すること
ファシリテーションという言葉は一般的によく使われるようになり、多くは「話し合いの技術」「話し合いの進行役」と捉えられています。しかし、この言葉の意味するところは「複数の人々の関係や共同行為を支援すること」「人と人とのつながりや関りを後押しすること」であり、広い捉え方をすると「会議術」とは限らないのです。
語源のファシリス(facilis)はラテン語で「たやすい」「容易である」という意味があり、ファシリテーション(facilitation)には「~を容易にする」「~を円滑にする」という意味が含まれています。つまり「人と人との〈つながり〉や〈かかわり〉を後押しすること」と包括的に定義することができるのです。(以上、テキストの説明より)
このファシリテーションの言葉の前に「ソーシャル」という言葉がついています。ソーシャルは「社会的」という意味があります。単純に「集団」として捉えるのではなく、支え合いを志向した「共同体」という意味を持っています。そのことから、ソーシャル・ファシリテーションというのは「地域における話し合いを支援・促進することで住民主体の地域づくりを進めること」と捉えることができます。
テキストの著者らは日本ファシリテーション協会(FAJ)の会長、副会長を経て、現在はフェローとして、ソーシャル・ファシリテーションの普及を通じて多様な人々が協働しあう自立分散型社会の発展をめざして活動しています。
チェックインで参加の動機を交流
この日の参加者は、生活協同組合や労働者協同組合の活動、被災地支援活動などに携わっている人たちでした。1時間半の予定時間の進め方を最初に確認したあと、チェックインとして研究会への期待やいまの気持ち、新年を迎えての近況などをそれぞれ発言しました。初めての出会いという人が多く、簡単な自己紹介タイムでした。チェックインというのは話し合いの最初に行なう手法の一つで、一度口を開くと、そのあとも発言しやすくなります。いわば話し合い前のウォーミングアップです。
参加者からは「仕事を進める上で司会をすることが多く、これまでもファシリテーションの技術を学んできたが、もう一段レベルアップしたい。みなさんとの交流の中で化学反応が起きればうれしい」「誰かと誰かをつなぐ仕事をしているけれど、うまくいかないことも多い。スキルを高めたい」「仕事のなかで組合員同士の話し合いがあったり相談を受けたりすることがあるのでファシリテーションのスキルを活かしたい。学校の役員会での運営にも役立てたい」「厳しい話し合いになったとき、どうしても説得や誘導をしたくなってしまう。別のかかわり方を学びたい」「地域で必要とされている事業を受託し、地域課題を解決する仕事をしているので、自分がいま望んでいる技術だ」「日常の会話や打ち合わせの中でも活用できたらと思う」などの参加動機が語られました。
ファシリテーション、4つの象限
第1回の研究会は今後の活動について話し合い、2回目は「ソーシャル・ファシリテーションとは何か」を概括的に学ぶ基本となる内容でした。最初に4つの組み合わせについて理解を深めました。
ファシリテーションには、一般的な場における「会議や対話の技術(話し合いの支援・促進)」としてのファシリテーション(図版の小文字)と「関係や共同行為を支援・促進する」ファシリテーション(図版の大文字)の二つの意味合いがあります。そしてソーシャルの捉え方には「個人・私的なつながり」で捉えた「集団」としてのソーシャル(図版の小文字)と「個人を超えた支えた合いを志向」した「共同体」としてのソーシャル(図版の大文字)があります。これらの組み合わせが4つできます。それぞれがどんな意味を持つファシリテーションなのかを学びました 。
①の一般的な場における「会議運営」のファシリテーションをベースにしながら、④の広い意味でのソーシャル・ファシリテーションへの学びをめざします。
事前に決めていた担当者がテキスト内容のポイントをまとめてパワーポイントなどで作成した資料にもとづいて説明し、その後、「なぜいまソーシャル・ファシリテーションなのか」の受けとめや考えを話し合いました。
ファシリテーションは「後押しする」こと
ファシリテーションには「容易にする」という意味があり、「後押しする」イメージがあることから、成人の日(13日)の大型スーパー店の売り場での出来事について発言がありました。
成人のお祝いの献立として「ちらし寿司」を提案するサンプルが置かれていました。どんな具材を盛り合わせるかリアルに実感できるようになっていて、買い物客に現物を示して「提案」するもので、これもファシリテーションではないかとの感想でした。スーパーの売り場は野菜コーナー、生鮮食料品コーナー、お惣菜コーナ、日曜雑貨品の陳列とわかりやすく並んでいて買い物がしやすくなっています。案内のポップも工夫して置かれています。パック詰めの食品の価格表示の横に「お鍋に最適」「焼いておいしく」などと張り出されているものもあります。これらは買い物客の行動を「後押し」するファシリテーションといえそうです。日常の中に、ファシリテーションは満ちていて、ファシリテーションを理解する上で役に立ちそうです。
話し合い4つのモード
続いて「話し合いとは何か」について理解を深めました。☆立場が変わり得るかどうか、☆結論が求められるかどうか―で4つのモードが考えられます。それぞれ対話、討論、交渉、討議に分類されます。(図参照)
探究と発見を目的とするのが「対話」、これと対極にあるのが利益の獲得を目的とする「交渉」です。優劣を競い合うのは「討論」で、これにはジャッジを下す第三者が必要となります。そして合意形成を目指すのが「討議」です。審議や協議とも表現されます。
ファシリテーションで焦点をあてるのは、自分の意見や考えに固執しない姿勢が必要となる「対話」と「討議」であることを理解しました。より深い探究や発見、より質の高い合意形成をめざすうえで、ファシリテーションが役割を担うことを学びました。
感想の交換では「討論になってしまった状態を討議に変えていくにはどうやったらよいのか」「話し合いの行き詰まりやバリア(障壁・障害)をどう乗り越えればよいのか」といった疑問が提起され、受けとめを話し合いました。
声に出して学び合うことの効果を実感
研究会はテキストをもとにした「読書会」のような形でスタートしていますが、最後のチェックアウトで参加しての感想を出し合いました。「本に書かれた内容の解釈が深まった」「読んでわかったような気がしていたが、言葉で改めて聴くことによって深く学べることを感じた」「複数人で学ぶことの強みを知った」「難しい内容なのでみんなで読んで理解するという読書会に参加してきたが、ここではみなさんが問題意識を持っていて、本をダシにして参加者の関係のなかで理解できる場だった」などの声が出されていました。
ファシリテーションにおけるチェックアウトというのは、最後に感想を出し合うことで話し合いの中で得たものやメンバー一人ひとりの貢献を確認するものです。それによってお互いの充実感を得ることができます(本に書かれている説明)。この日は実質的に最初の研究会であり、初めての出会いの人が多かったにもかかわらず笑いが起こるなど和やかに進行し、感じたことを率直に話すことができる雰囲気が漂って、ファシリテーターが特に介入しなくても話し合い(研究会)がスムーズに進行していました。
取材・執筆 太田秋夫(ソーシャルライター)
2025年2月〜3月のソーシャルファシリテーション講座予定
次回(第3回)の研究会は2月18日(火)で、具体的な話し合いのファシリテーションの技術を学ぶ予定です。話し合いの場づくり、話し合いの進め方がテーマとなります。さらに次のステップとして、大きな意味でのソーシャルなファシリテーションについても理解を深めます。その後も月1回のテンポで開催することにしており、第4回は3月12日(水)です。いずれも18時30分~20時でZoomによる開催です。
研究会を呼びかけた中谷隆秀さん(長野県生活協同組合連合会事務局長)は「ファシリテーションの仲間を増やし、地域と社会の役立てたい」と開催の動機を話しています。関心のある方どなたでも「ゆるい関係」で参加してもらいたいとのことです。当面は読書会のような形で進めるものの、その先については参加者の意向で決めていきたいとしています。
連絡先/ 研究会の詳細問い合わせや参加申し込みは窓口の中谷さんが受け付けています。
>>メールはこちらから