段ボールから幸せを創る -若穂紙器有限会社

便利で身近で空気みたいな存在になっている段ボール。改めて見つめ直してみると、これなしの生活は成り立ちそうにありません。原材料は古紙(利用率90%以上)と再生可能なパルプ接着剤や印刷用のインクも自然素材で、リサイクル率95%以上と、サステイナビリティの点でも優等生です。子どものおもちゃやインテリア、災害時のベッドなど、包装資材以外の応用可能性でもますます注目されています。若穂紙器有限会社は、社名の通り、長野市若穂保科で段ボールを製造販売して約50年という地域密着型の企業です。

金属から段ボールへ転身して社長に

社長の星沢裕厚さんは3代目。元は鋼索機械のエンジニア。家業継続の期待を背負っていたわけではなく、色々な条件が重なった結果の転身だったのもあり、±1/1000㎜という精度の金属加工から±3㎜まで許される段ボール加工の世界に入った当初は「雑に感じて、ちょっと見下していた」といいます。

新しい機械も導入して事業拡大へ

先輩従業員から指導を受けて「下っ端」からスタートしたのが10年前。だんだん段ボールの魅力に気づくようになりました。特に印象的だったのは、特別支援学級の教師の「段ボールの家に入ると子どもが落ち着く」の一言でした。金属にはない温かみと軽さと自由さ、環境へのやさしさ…。触発されて段ボールの家を商品化したところ、かなりのヒットに。面白くなって電車などさまざまなオリジナル段ボール製品を開発するようになりました。

軽くて便利な段ボール製テーブル

事業拡大を視野に新しい機械を複数導入し、可能性へのチャレンジと誠実さを基本とする社是を公表、ロゴも刷新してコーポレートアイデンティティを明確化し、社長に就任して2年になります。

人も地域も企業も元気になる拠点を

創業以来の取引先からの厚い信頼で受注も増え、星沢社長は自社工場付近に倉庫を購入することにしました。ところがこの倉庫に「使い道のない住宅部分まで一緒についてきてしまった」。税金もかかるため取り壊そうかと考えていたとき、ひょんなことから、長野を元気にしようとイベントを行っていた中澤裕佳さんと出会うことになります。

中澤さんは長年勤務した会社を辞めたところ。恩師がうつ病に苦しんだのをきっかけに心の病について考えるようになり「それを防ぐために、みんなが楽しくなることをしたい」と活動を始めていました。場所を持て余していた星沢社長と、拠点を持ってアイデアを実行に移したかった中澤さんの、タイミングのいい出会いでした。

意気投合の星沢さん(左)と中澤さん

中庭から出ると保科川が流れ、対岸にはハイキングもできる太郎山が控え、遥かに飯綱山の全容を、建物にも電線にもじゃまされずに望むことのできる立地にある住宅は、手を入れたら色々に使えそうな気配。構想が膨らみます。

ひとつは、ここを段ボールのコンセプトショップにしようとの計画で、星沢社長の担当。段ボール製の畳、大型プリンターを駆使してのオリジナル壁紙、段ボールの椅子、テーブル、棚、そしてもちろん子ども用の滑り台やおもちゃなど、可能性は無限です。中澤さんの担当は場の活用。ママたちが持てる力や技術を活かして活躍できる場にしようとの計画を進めています。「お母さんが元気なら、家族みんなが元気になれるから」と中澤さん。

みんなが元気になれる拠点をつくりたい

民泊施設もでき地域おこしの機運が高まっている若穂地区の人たちとのつながりも大事にしながらコツコツ準備中で、アイデアも募集中です。「うちの段ボールに地元野菜を入れて皆さんに届けたい」との星沢社長の希望も、この場に地元野菜の直売所を設置することから実現間近です。

社内の連帯感も強まる

受注品の誠実な製造と納品という長年の基盤は強化しながらも、独自性を発揮する星沢社長のもとで社内の雰囲気も変わってきました。従業員それぞれ、すべきことが決まっている仕事柄、ほとんど必要なかった朝礼をするようになり、社員の誕生日にプレゼントを贈るようにしたところ、星沢さんの母の誕生日に社員からケーキが贈られるサプライズも。

パート含む社員9人という小さな会社だからこそ、少しの変化が大きな影響になっているようです。星沢社長が名刺を裏返すと「私たちは、すべての人々に幸せと豊かさを創り出します」の企業理念。中澤さんのは「Quality of Life」でした。このマッチングから何かが生まれようとしています。

(取材・文/北原広子)

 

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