長野日本大学高等学校特別授業 企画 特別取材!
『~2030年住んでみたい訪れたい長野を創ろう~』
長野日大中学高校の教育理念「卒啄同時」(そったくどうじ)・・・仏教で自らからを破ろうとする、外から殻を破る、親と子、師と弟子が同じタイミングで殻が破られること…。
2019年3月13日、日大高1年生約300人と地域のNPO、そして教員が一体となって学んだ特別授業『~2030年住んでみたい訪れたい長野を創ろう~』で、まさにこの「卒啄同時」が起きた瞬間だった。
一人の卒業生が大学やNPOとコラボして実現
この特別授業が実現したのは、長野日大高校出身の小林達矢さんが学校を訪ねたことがきっかけ。小林さんは、以前から若者の政治参加に関心を持っていたこともあり、熊本の行政が開発し全国に広がっている対話型シュミレーションゲーム「SIM熊本2030」を体験するなど教育プログラム研究を進めてきた。
独自のプログラム開発ができないかと、清泉時学院大学榊原直樹先生と一緒にプログラム開発をスタート。中山隼雄科学技術文化財団の研究助成金などを活用し、若手の自治体職員研修を行ったり、NPOや行政関係者にも協力を仰ぎ改良を加え、タブレットを使った「自治体経営シュミレーションゲーム」完成に至った。
そして、今回、初めて300人規模で全員タブレットを使用した授業が実現したのだ。小林さんが所属するNPO法人長野県NPOセンターでは、長野に住む高校生や大学生が地域課題に触れる機会を提供し、課題解決に向けて主体的に行動できる次世代人材育成事業(youth reach・地域まるごとキャンパス)に力を入れている。「このゲームを通して、ぜひ学校外での社会活動に参加してほしい」と小林さん。
SDGsにも目を向けて地球規模で社会問題を考える
2019年度のユースリーチ事業では、特に国連開発目標であるSDGs(持続的な開発のための17のグローバル目標と169のターゲット)の普及啓発も実施し、学生がSDGsを実現するためのアクションプランを考え、地域の大人と行動を起こしていく仕組みになっている。
現在、長野県でもSDGsの啓発活動を進めており、今回の授業ではゲストに中島恵理副知事を迎え、SDGsの意味やその取り組みについて説明があった。
議員の立場に立って公共事業の是非を議論
午後に入り、いよいよシュミレーションゲームが始まった。7人ずつ44のグループに分かれ、タブレットを使ってゲームにログイン。副知事を始めNPO関係者や日大OBなどがグループに参加。学生には中山間地の議員、都市の議員、無所属の議員と、それぞれ役割が与えられる。様々な公共事業をすべきか否か!? 人口や環境などの指標を考えつつ、意見交換をして結論を導き出していく。その結論によって、議員の支持率も変化する。
・・・・・・と中身の種明かしはこれくらいにしておきましょう。
3本槍を意識した特別授業の企画を全県に広めたい
小林さんによると、今回の授業のプログラムの柱は3つ
1. 主権者教育(公民の授業の一環)
2. 探求的学び、思考的学び
3. ICT活用による教育
・・・「今、教育改革で求められていることが詰まった授業」と小林さんは語る。「社会参加を促し、自ら考えて学ぶこと。そしてICTを活用したタブレットゲーミィフィケーションにより、結果がデータとして蓄積され、客観的に評価しやすくなった」のだという。
教員や大人の期待通りの答えを出すのではなく、自ら学び、意見を交わし、選択し、社会の仕組みや自分の能力に気が付いていく授業だ。
正解のない授業・・・。ゲームでは、たとえ日ごろ成績優秀な子ばかりが集まったとしても、財政を破綻させてしまう可能性も秘めているのだ。「このゲームには想像力がもとめられる」と小林さんは強調する。
多面的に物事を見れる人材が求められる
「高大連結接続の改革の波の中で求められる人材像が大きく変わろうとしている」とも。
その中で教育界では、どういった教育プログラムをしていかれるかが課題だ。今、社会の課題や価値観が複雑化している。社会を良くしたり、変えていくためには、多面的に物事を見れる人材が求められるのだ。
今回の企画に協力参加してくれた社会人は12人。院生、OL、ライター、議員、主婦、行政マン、経営者、個人事業家などなど様々。学生に教える立場ではなく、学び合う姿勢が素晴らしかった!! 様々な経験と背景を持った大人の発言に、学生たちは食い入るように耳を傾けていた。
「このプログラムを通じて、世の中をよくしていかれる人材を輩出していかれたら」と小林さんは期待する。今後は県内各地で、高校・大学、行政などで活用してもらえるよう、啓発活動をしていく予定だ。
ゲームはきっかけ、次は町に出て行動をしてほしい
また、このゲームを体験した学生が、次のステップとして取り組むのが「行動」。長野県NPOセンターでは、前記したように「地域まるごとキャンパス」「ユースリーチ」事業という受け皿も用意している。昨年は両事業合わせて約200人の高大生が、NPOなどと一緒に社会の課題解決のためのまちづくりの活動に加わったり、自ら企画し行動したりした。
「机上で学んで、つぎは町へ。実際にアクションを起こさないと、なにも変えられない」と小林さんは語気を強める。
「協働」「パートナーシップ」という言葉が、今回の企画に生かされていた。ひとりの卒業生の取り組みやアイデアが、NPOや学校、大学の先生までも巻き込んだ。学生を変える、地域を変える、そして世界を変える取り組みへと、長いスパンで広がっていく。そうした取り組みを、今後もスクラムを組んでやっていこう、と4人は誓い合った(上記写真)。
「卒啄同時」(そったくどうじ)・・・学生だけでなく、大人も、互いに育ちあい、殻を破りあうことの大切さ、そして楽しさを痛感した瞬間だった。
<主催・協力団体>
主催:長野日本大学高等学校
企画協力:NPO法人長野県NPOセンター
研究協力:清泉女学院大学榊原直樹研究室
(文責:ナガクル編集デスク:寺澤順子)