長野県飯綱町を拠点とするNPO法人GOZAN(ござん)自然学校が主催した冬のエコツアー「雪上ワンダーハイク」。同校の設立者で代表者の目須田 修(めすだ おさむ)さんは、「冬の森こそ原生的な自然を見せてくれます。人は森と共存して暮らしてきたのだと改めて気づかされるでしょう」と言います。
環境と経済の好循環をめざすGOZAN自然学校
設立は2002年。東京都内で広報宣伝などのパブリシティ活動をしていた目須田さんが、地域の活性化に寄与したいと地元の牟礼村(現飯綱町)へ戻り、「自然との共生」をテーマにしたエコツアー活動を開始しました。NPO法人にしたのは2004年。
北信五岳(ほくしんごがく=飯綱山・戸隠山・黒姫山・妙高山・斑尾山)の自然豊かな麓をメインフィールドに、エコツーリズム※を取り入れた自然体験学習と自然環境保全活動を展開しています。
目指すところは、環境と経済の好循環。
スローガンは「自然を楽しみ、自然に学び、元気を明日につなごう」。
地元住民や自然環境保全活動に関心のある人の雇用につながる人材育成と、行政や企業とのネットワークづくり、自然体験学習による「子どもの育成」などの活動を展開しています。
<活動内容>
- エコツアー(キャンプ、低山、古道、雪上)の企画、運営
- 自然環境保全活動に関わるインストラクターの育成
- ガイド派遣
- 「どんぐりで森づくり」活動の支援
- 講演活動
※エコツーリズム:地域の環境や文化の保全のため、旅行者にその素晴らしさに触れてもらったり、体験したりしてもらったりする観光形態のこと。さらに、自然の保全と経済の成長を切り離さず、旅行者が責任を持って観光することにより、環境と経済の好循環を目指す。
さあ、歩くぞ!
冬のエコツアー「雪上ワンダーハイク」
2024年2月4日(日曜日)、50歳代から~70歳代までの男女9人が参加した「雪上ワンダーハイク」。GOZAN自然学校のスタッフ2人のガイドを受けながらスノーシューを履いて8㎞を歩きました。
様子を写真で紹介します。
詳しいツアー情報等は、NPO法人GOZAN自然学校のサイトをご覧ください。
鏡池(長野市戸隠)の上を歩く。どこまでも行ける!
鏡池を望みながらのランチタイム。テーブルと椅子を設営⁈
スコップで雪原に大きくL字型の印をつけ、そのラインに沿って幅30㎝/深さ50㎝ほどの溝を掘っていきます。
溝の淵を平らにならしたらセッティングOK。溝に脚を入れ腰を下ろすと、前がテーブルに、後ろが椅子になりました!
冬のフィールドで見る動植物
●痕跡から動物たちの暮らしや生存戦略を知る
●冬姿の樹木ウォッチング
●里山の生活や文化を知る
樹姿が「龍」に見えることから、地元で「雌龍 」(下写真・左)、「雄龍」(同・右)と呼ばれているミズナラの大木を訪ねました。ミズナラはこの地に暮らす人たちの薪や炭材として重要な資源。木を残すために、枝だけの伐採を繰り返してきたので、このような樹形になったといいます。
<参加者の声>
70代男性(長野市):厳冬期に、道路でも林道でも遊歩道でもない林間を分け入って進み、枝葉が茂っている季節には行けないところまで行ける冬のツアーはとても魅力的で何度か参加しています。定番コースだけでなく新コースも用意してくれるので、毎回新たな地元の森を発見しています。
60代夫婦(長野市):山歩きが好きで緑の季節の戸隠を何度も訪れています。スノーシューを履いての冬の森は初めてです。緑の季節とはまったく違った森を見ることができました。森は生きているんだって、新鮮な驚きでした。ガイドをしてくれる人と一緒なので安心して歩けました。ガイドさんから雪の上に残る足跡など動物の痕跡の説明を聞くことで、野生動物が棲むエリアへ足を踏み入れたんだなと実感しました。
60代女性(長野市):2回目の参加です。ガイドさんの説明から一人では見過ごしてしまうさまざまな発見に感動しました。生きるために食べ物を求めて厳しい自然の中、動き続けている動物がいることや、大樹1本からこの地に暮らした昔の人の文化や歴史まで知ることができました。
解散の前に、最後の仕上げ!?
集合場所でもあった中社の駐車場へ戻って、ツアーは終わり。解散の前に、翌日の筋肉痛を和らげるための、ちょっとハードなストレッチ体操をしました。
解散後に「五感が刺激され、知らないことに気が付くこんな体験、いいよね」と話しながら歩く参加者同士の会話が印象的でした。
GOZAN自然学校エコツアーのルール
■誰もが同じ条件で自然と触れ合えるための現状維持
「自然と共にいることは楽しい」と次の人、次の次の人が思えるように現状維持は厳守。
「この楽しさを失ってはいけない」という一人ひとりの思いが自然保護につながる。
だから、山菜もきのこも、花や枝も採取禁止。
■アニマルトラッキングをツアーに入れる。
アニマルトラッキングとは、糞、足跡、食痕などから動物の生息状況や生態を推定する試み。
私たちが森に入っているのは、獣たちが暮らしている場所に足を踏み入れているんだ、という謙虚な目線を持ってもらいたいから。
生態を知って、自分は何をしたらいいかを考えてもらいたいから。
GOZAN自然学校設立の背景と今
リゾート開発が進められたバブル期
日本中がバブル景気に沸いていた1987年、「総合保養地域整備法(リゾート法)」が公布施行されました。ゆとりある国民生活の実現、地域振興を図ることを目的としながらも、リゾート開発を推し進めるための環境保全に関する規制を大幅に緩和する法律でした。
リゾート施設の建設ブームが起き、全国各地で大規模開発が進みました。しかし、バブルは崩壊し、開発は次々と頓挫。その後、日本は1992年に世界遺産条約に加盟。2008年にはエコツーリズム推進法が施行されました。
リゾートはダメだと思った目須田さん
イベントプロデューサーとしてパブリシティ活動の最前線にいた目須田さんは、このような日本の観光産業の現状を早期に知ることができ、今後を予測することができました。
そして、「自然を生かした地域活性を考えた時、リゾートはもうダメだ」と確信したと言います。
常に思うのは、スキー場やゴルフ場を抱えながらも、過疎化が進むわが故郷でした。
施設はいらない。自然そのものを楽しんでもらって、地域を活性化できないだろうか。 エコツーリズムを取り入れたエコツアーだ。 これからの時代にピッタリな観光スタイルになる。 そのためには勉強しなくてはならない。
そのような時、富士山の環境保護・改善活動に取り組んでいる「富士山クラブ」がインストラクターを募集していました。
すぐに入会し、ガイド養成講座で植物、動物、野鳥、歴史、地学、天気(気象)など、ガイドの必修を学びました。帯状疱疹になるほど大変な勉強だったそうです。
ネイチャーガイドの資格を取得し、樹海を2年ほどガイドするうちに、「うちの町の方が富士山よりはるかに自然財産は多い! うちの町でもやれる!」との思いを強くし、自信をもって地元へ帰り、仲間と話をしました。
最初にペンション経営者らが、「地域を活性化してくれるならありがたい」と賛同してくれました。
しかし、多くの地元住民にとって周りの自然は当たり前の風景であり、そこに価値があることを認識してもらうのは困難でした。
「目須田さんちの修ちゃんが帰ってくるらしいが、どうも田んぼ道を歩いて金を取るんだってさ」
こんな会話も聞かれました。
自分の町の財産を知ろうよ
「観光客に地域の資源を伝えることによって、地域の住民も自分たちの資源の価値を再認識し、地域の観光のオリジナリティが高まり、活性化される」
これをエコツーリズムの概念としますが、GOZAN自然学校として活動をはじめ22年を経過しても、「わが町の資源の価値は、なかなか認識されにくい」と言います。
目須田さんの呼び掛けは、まだまだ続いています。
「地域活性」などと大上段には構えません。 自分の町の財産を住民みんなに知ってもらう。 自分の町の財産を知ろうよ。 ずっと呼び掛けています。
NPO法人GOZAN自然学校 〒389-1211 長野県上水内郡飯綱町牟礼2803
E-mail gozan@xg8.so-net.ne.jp
<取材・執筆>ソーシャルライター 佐藤定子