「ゴミ拾い」で「逃走中」! 高校生が考えたイベント「清走中」ー長野県5カ所で

世界で排出される大量のプラスチックゴミが海を汚しており、SDGsの17の目標の14番目にも「海の豊かさを守ろう」が掲げられています。“海なし県”の長野県に住んでいると、海洋汚染を身近に感じるのは難しいかもしれません。しかし、海を汚すゴミの多くは川から流れついており、海から遠く離れた長野からできる活動もあります。

2021年3月9日、長野市の中心部にある長野市立鍋屋田小学校で、「清走中~Run for trash~長野市街地編!」というゴミ拾いイベントが開かれました。

フジテレビで不定期に放送されている「逃走中」という番組があります。

ゲーム参加者(逃走者)が限られたエリアのなかでハンターから逃げつつ、さまざまなミッションをクリアしていく番組です。

この「逃走中」と「ゴミ拾い」を合体させ、ゲーム感覚でゴミ拾いをするイベントが「清走中」です。

これは、主催する学生団体「Gomitomo」代表で、長野高校3年生の北村優斗さんのアイディア。

北村優斗さん

小さな頃から大好きだった江の島が、プラゴミだらけになっている現状を知り、ゴミ問題に関心を持っていた北村さんは、「ゴミ拾いを楽しいなと感じてやっていた」という昨年1月。妹と「逃走中」を観ていて「ゴミ拾いと組み合わせたら絶対に面白くなるのでは」とひらめいたといいます。

フジテレビの「逃走中」制作チームにコンタクトを取り、ロゴ使用も含めて許可をもらったそうです。

当初は神奈川県の高校生とともに、2人でオンラインでスタートした活動でしたが、緊急事態宣言下の休校期間が明けて多忙に。

そこで、北村さんが参加している長野の高校生・大学生の地域まちづくり活動「ユースリーチ」と共催で、昨年7月に「清走中」を初開催しました。

長野市では今回が2回目の開催。前回は一般参加者向けのイベントでしたが、今回は鍋屋田小学校6年生(当日は29人)と教員、保護者、高校生、一般の大人参加者が6チームに分かれ、小学校の周辺を歩きながらゴミを拾い集めました。

イベントはポイント制で進められますが、「拾ったゴミの総重量」「ミッションの達成状況」「ハンターから逃げ切った人数」によって加算され、最終的に最もポイントを多く獲得したチームが優勝です。

スタートと同時に子どもたちはどんどん街に出ていき、「ゴミのある場所、知ってるよ!」と、ゴミを勢いよく集めていきます。

商店街の側溝に捨てられるタバコの吸い殻

ゴミ拾いだけでなくミッションの解決がポイントになるのも「清走中」の面白さ。各チームの1人がスマホに登録したLINEを通じて、随時ミッションが送られてきます。

どういうルートで周り、いかに多くのミッションを解決するのかが勝利のカギになります。

チェックポイントで写真撮影してミッションクリア

小学校は繁華街の権堂エリアに近く、タバコの吸い殻、ペットボトルや缶があっという間に袋にたまっていきました。ビニール傘やガラスなど、予想外に多種多様なゴミが落ちていました。80分間のゴミ拾いで、袋は破けるほどにずっしりと重たくなりました。

1グループだけでもこれだけのゴミが集まった

子どもたちからは「大変だったけど楽しかった」。参加した保護者は「普段は車で通り過ぎてしまうから、ゴミが落ちていることに気が付かなかった」「きれいになると気持ちがいい」という声が聞かれました。

ゴミ拾いの後は、しっかりゴミを分別し、後半の「逃走中」タイム。

小学校の校庭で、ハンターに扮した学生スタッフから逃げ切れればポイントがもらえます。

ハンターたち

俊足のハンターに対し、隙を見て隠れるなどして見事に逃げ切る小学生たちでした。

鍋屋田小では、7月の初回開催の際に場所を提供した後日、6年生へのキャリア教育の一環で北村さんに活動について話をしてもらったといいます。

田川昌彦校長は、「清走中」を学校で受け入れたことについて、「今までとは違う価値観の時代が来る。良い大学に入って良い会社に入るだけでない生きがいを持っている若い世代の活動を、子どもたちに知ってもらおうと考えた」と話します。

イベントの終わりに、北村さんは「鍋屋田小の周りにも、たくさんのゴミが落ちていることに気付いてほしい。このままだと海に流れついたゴミが海に溶けて人間の体を蝕み、みんなの大事な人が病気になってしまうかもしれない。ポイ捨てをする人もいるけど、みんなはそれに流されないで、絶対にポイ捨てをしないでほしい」と訴えました。

そして、「好きなことを極めてほしい。自分が好きなことを恥ずかしがらずに発信して。自分が好きなことを応援してくれる人が必ずいる。好きなことを信じてワクワクしながら人生を送ってほしい」と、子どもたちに伝えました。

「清走中」には、多数の企業から資金や品物の協賛を得ていますが、北村さんが公式サイトのお問い合わせフォームなどから地道にコンタクトをとっていったといいます。

ゴミ拾いの軍手を提供したJT(日本たばこ産業株式会社)は、社員が一緒に清走中に参加しました。

今回は、ゴミ問題解決を目指すスタートアップ企業、株式会社Gab(本社・東京都渋谷区)と共催で、3月中は上田市、松本市、飯田市、諏訪市でも順次開催されます。

※3月13日開催予定だった上田市街地編は、天候不良のため中止、期日未定で延期になりました。

北村さん(最前列中央)、イベントスタッフと田川校長(最後列の一番左)

3月で高校を卒業する北村さんは、「最終的には、ゴミ拾いが必要のない世界になるのが理想」としつつ、今後はGabのクリエイティブディレクターとして、「清走中」を全国に広めていきたいとしています。

文:ナガクル・ソーシャルライター 松井明子