長野市を中心にNPOなどで構成する「ながの協働ねっと」は、2025年5月31日、被災からまもなく6年になる長野市長沼地区で25年度通常総会を開催しました。
会場は、未だ被災状態のままで修復を待つ200年前の古民家「米澤邸」です。総会のあとには、地域の産業の足跡が刻まれている長屋門や主屋の土壁を見学し、管理団代表から長沼の歴史と文化について説明を受けました。続いて、妙笑寺へ移動し、住民二人から「復興への思い」を聞き、参加者は災害から立ち上がる被災地域に気持ちを寄せました。
30団体が加盟するネットワーク組織
「ながの協働ねっと」は「ながのの未来を創る、みんなの新しいコミュニティ」を使命として、2014年7月にNPOが声を上げ、市民協働サポートセンターを拠点に設立。NPOや市民グループ、企業など30団体が加盟しています。未来志向で議論し、共に地域・社会の課題解決に向けた事業を企画実行することで、新しいコミュニティが育つことを目指しています。
これまで、みそフェスタや忍者フェスタを長野市内で開催し、「地域まるごとキャンパス(現在は長野市の事業として継続)」を実施するなど、分野を超えた協働で取り組んできました。直近では、動画やオンラインTVで市民活動を紹介する住民ディレクターの活動を広げるための研修を行なっています。

通常総会はこれまで市街地の「会議室」で開催してきましたが、今年は交流と学びを兼ねて、令和元年の台風19号で甚大な被災を受けた長沼地区を訪ねることに。会員の中には被災地支援に関わった団体もありますが、まもなく被災から6年になる被災地の現状を改めて知り、緊急時や平常時の協働について考えることがねらいでした。
会場となった「米澤邸」の特徴と長沼の歴史・文化を学ぶ
滞りなく総会が終了したあと、「米澤邸」を核に活動している「しなの長沼・お屋敷保存会」の天利一歩会長から説明を受けました。
天利さんは現在もそのままの形で残っている裏北國街道(現在は県道)のことから話し出し、直角に幾度も曲がる街道の特徴や長沼城があったこと、武田信玄と上杉謙信のたたかいの場だったこと、小林一茶が長期にわたって逗留し住民に俳句を教えたことなどを紹介しました。
つづいて長屋門を案内し、養蚕やりんご栽培といった長沼の産業の変遷と建物内の遺構を説明。特に天井に描かれた「八大龍王」の文字の意味が参加者の関心を呼びました。水に関わる「龍」であり、千曲川の氾濫に悩まされてきた地域の歴史とも関係が深いのです。
主屋の説明では、昨年6月から10月にかけて10回にわたって実施した「左官塾」で塗られた土壁の説明がありました。「磨き」と呼ばれる鏡のように仕上げた技術やフレスコ画が施された美しい漆喰の壁などを紹介しました。
「米澤邸」は東北中学校3年生の総合学習、松本や大阪の大学生の被災地視察・防災研修などで学びの場所として活用されています。被災の翌年は長屋門の土壁を修復するワークショップが行なわれるなど、伝統構法の建物の特色と技法を学ぶ場としても活用されてきました。



窯で仕上がった焼きたてのピザを頬張る
「米澤邸」の庭先には、レンガを積んだ即席のピザ窯(かま)があります。これを使ってピザを焼いて食べながら交流するというのも今回の企画の一つでした。
バジルやトマトなどさまざまな野菜のトッピングを試しながら、焼きたてをいただきました。お屋敷保存会のメンバーで、これまで何度もピザ焼きのイベントを行なっている塚田真由さん(ガーデンデザイナー・樹木医)も協力。「ながの協働ねっと」の事務局で野菜ソムリエプロ/薬膳コーディネーターの増田朱美さんが生地作りを事前に研究し準備して来たこともあり、味わい深い仕上がりとなり、焼けると同時に参加者の口に入るほど好評でした。
さらに長沼地区で近年評判になっている「ホッペパン」というお店のランチboxも届き、重厚な古民家を背にゆったりした昼休みとなりました。

キセキのみそ復活の小川醸造所に立ち寄る
午後は長沼地区の散策です。案内人は長沼地区の「まちづくり委員会」委員長をしている関博之さんです。被災当時、支援活動に入ったことがある人には家が解体されて空き地になっている所が目についたようです。堤防決壊場所近くを通って進むと、いまは姿を消した当時の長沼支所あたりは空き地になっていました。ここに「復興道路」が作られる予定と関さんからの説明。その先の交差点脇に建っていた民家もなくなり、いまは駐車場です。
天利さんから説明があった直角に曲がる「県道」を右に折れて進むと、右手に小川醸造場があります。浸水高は2メートルを超していて、味噌づくりを一時はあきらめた小川泰祐さんでしたが、「キセキのみそ復活プロジェクト」が立ち上がり、市立長野中学校1年の子どもたちの支援やクラウドファンディングによって大豆選別機を贈るなど励ましの活動をするなかで、小川さんの味噌が復活しました。
建物はすっかり被災の面影がないほどきれいになっています。この修復に携わったのが工務店を営んでいる関さんです。関さんが玄関で声をかけると小川さんご夫妻がご在宅でした。復活プロジェクトの先頭に立っていたのが「ながの協働ねっと」代表理事を務めている飯島美香さんで、小川さんと久しぶりの対面を果たすことになりました。復活プロジェクトは、NPO法人食育体験教室・コラボ、ながの協働ねっと、長野県NPOセンターなどで構成されました。飯島さんはプロジェクトの名前が入った暖簾が今も掲げられているのを見て熱い思いがこみ上げたようでした。
小川さんは浸水した高さがわかるように壁を修復したことを説明してくれました。住民それぞれが工夫して、被災の足跡を後世に伝えようとしていることを知ることができました。


被災を乗り越える復興への歩み(笹井妙音さん)
過去の浸水高を示す参道の標識を見てから妙笑寺の中へ。住職夫人で長沼復幸会の活動の中心になっている笹井妙音さんが待っていました。
笹井さんはプロジェクターで防災ステーションの建設計画を最初に説明。これが完成したら、その上に支所が建てられる(現在はプレハブの仮設)ことを紹介しました。被災から6年を経るものの、まだ先のことです。
堤防の改修について、決壊した直後から次第に現在の姿になるまでのプロセスを紹介しました。広範囲が湖と化した大もとの決壊現場。改修が進み三方をコンクリートで固めたことで今後は決壊しないと国交省が説明しているものの、堤防の高さはこれまでと同じなので越水の可能性はあるとのこと。防災ステーションは堤防と同じ高さですが越水したときのために住宅側は90㎝高くなると、笹井さんは説明しました。
笹井さんのグループが被災直後から餅つき、豆まき、節句弁当、七夕まつりなどをやってきたことを写真で紹介。長沼の魅力を伝えるために8枚の絵はがきを作ったことなども説明しました。やむなく地域を離れた人に参加してもらい、おいしいものを食べながら再会を喜び合う味彩(あじさい・紫陽花)の会を毎年6月に開催しており、ことしも3回目を実施する予定とのことでした。いま取り組んでいるのは『長沼歴史散歩』の出版です。長沼の魅力を多くの人に知ってもらうための活動です。

プロジェクトを立ち上げて100年先を目指す(関 博之さん)
関さんのお話は、「長沼の楽しいまちづくり」についてでした。冒頭で、昨年行なった「てっかりんご飛ばし大会」の映像を流しました。長沼神社のお祭りのとき、剣飲みやノミ取りなどユニークな動作が入った獅子舞を奉納することや、「伊勢講」という伝統的な行事(伊勢神社に参拝して来た人たちの地元への報告)が行なわれていることを紹介。被災から立ち上がり復興に向けて進んでいることを伝える話でした。
関さんは、長沼はどんな地域か、どのようにまちづくりに取り組んできたかを説明したあと、「まちづくりの目指すこと」について詳しく語りました。テーマは「子々孫々まで思いをつなぐ~100年後の長沼のために~」です。「長沼を愛する思いと誇り」を根っこにして「子どもたちを核としたまちづくり」「農業を核としたまちづくり」に取り組み、「100年先を見通したまちづくり」をめざすとのことでした。

そのために、いろいろなプロジェクトが立ち上げられました。
☆てっかりんご飛ばし大会
☆長沼かるた
☆ホームページリニューアルプロジェクト
☆目指せ 長沼小学校100人プロジェクト
☆環境保全・空き地問題プロジェクト
☆ふくりんでまちづくりプロジェクト
☆長沼観光協会プロジェクト
☆その他の活動
それぞれについて活動内容を紹介。そのなかで、長沼小学校の未来について「学校の教育方針にまで地域が関わるコミュニティスクールをめざし、地域住民と学校がいっしょになって特色ある学校にしていくことをめざしたい」と語りました。将来は「長沼小学校に行きたいから長沼に移住する」という人が現れるところまで持っていきたいとのことでした。
最後に「人は人を浴びて人になる」という言葉を紹介し、「ここで生きていくという覚悟と誇りで取り組む」と決意を披露しました。関さんは長沼の「沼」からとった「沼ろうTシャツ」を身につけることもしています。(沼るというのは、何かにどっぷりとハマって抜け出せなくなるくらい夢中になること)
被災地にいつまでも気持ちを寄せよう
笹井さんと関さんの話には長沼に寄せる熱い思いが溢れていて、参加者は深く感動した様子。自分の住む地域を自分たちでよくしていく取り組みは、「ながの協働ねっと」に加盟する人たちそれぞれの活動精神にもつながります。
参加者からは「被災を単なる思い出にしてしまってはいけない」との感想が聞かれました。被災から6年を経るなかで、身近な地域で大きな災害が起きたことを忘れがちとの指摘もされています。地震、水害など災害はいつ襲ってくるかわからないだけに、近くで起きた災害から学び、復興に立ち向かう人たちに関心を寄せることの大切さを改めて確認することができた総会&交流&視察となりました。
3回目の「てっかりんご飛ばし大会」は7月5日(土)開催予定で、いま参加者を募集中とのことです。

今回の総会では交流の一環として、ヒンメリ作家塚田真由さん指導によるヒンメリ作品づくりのワークショップ、ながの電気クラブの展示発表もあり、内容の濃い一日になりました。
取材・執筆 ソーシャルライター 太田秋夫(ながの協働ねっと会員)


