#段ボール箱で生ごみを堆肥化。どんな人でも始められる仕組みづくり

段ボール箱で生ごみを堆肥化。どんな人でも始められる仕組みづくり

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執筆者:松井明子 (ナガクルソーシャルライター)
 2022.3.25

長野市の家庭系可燃ごみ排出量、生ゴミが3割!

長野市のごみ総量と市民一人一日当たりの排出量は、平成15(2003)年度をピークに減少傾向にあります。

家庭系可燃ごみに占める生ごみの割合は、重量比で37.4%(平成29~令和元年度 組成分析結果平均)。そのうち、食品ロス7.5%あります。

令和2年度長野市ごみ処理概要(令和元年度結果 令和2年10月 長野市環境部生活環境課発行)の資料から抜粋

生ごみは水分量が多いので、燃やせるごみのなかでも焼却に時間がかかり、CO2が余計に発生します。

しかも、生ごみは堆肥化すればごみとして排出する必要もなくなりますので、自家処理が進めば大幅に可燃ごみを削減でき、CO2と税金の負担も減らすことが出できるのです。

家庭での生ごみの堆肥化と、その回収を行う仕組みづくり

環境啓発活動などを行っている「NPO法人みどりの市民」はこれまで、生ごみの減量と有効活用を図るため各地域で普及啓発を推進する人材、「生ごみ減量アドバイザー」の養成講座を開催してきました。受講した人は、長野市の生ごみ減量アドバイザーに登録でき、ボランティアとして生ごみ減量の実践指導を行うことができます。現在は22人が登録し、2022年度も5月から養成講座が予定されています。

みどりの市民は2018年、段ボール堆肥の基材の配達と回収をする仕組み「どんぐり・るるネット」をスタートしました。5年ほど前の生ごみ減量アドバイザー例会でのワークショップで、段ボール堆肥がなぜ続かないのかを話し合ったことがきっかけでした。

その理由として挙げられたのが、

  • 基材がなかなか手に入らない
  • 堆肥ができても、それを使う畑がない

といった課題。

段ボール箱で堆肥化を始めるには、段ボール箱以外に「基材」を用意しなければなりません。

腐葉土など、ホームセンターなどで手に入るものを基材にして始めることができますが、定期的に購入しにいかなければならないというハードルがあります。

それ以上に大変なのが、「できた堆肥をどうするか」という問題です。

自分の畑がない、マンション住まいで庭もないという場合、せっかくできた堆肥をごみに出さざるを得ないという、本末転倒の事態に陥ってしまいます。

段ボール堆肥を続ける上での課題を洗い出したところで、長野市の西山地区の竹林整備などを行う「西山淡竹会」の松橋清美さんが「竹チップがたくさんあるから、それを配達して、回収しに行ったらどうか」と提案しました。

機械で細かく砕いて製造される竹チップ

松橋さんたちが伐採した竹を粉砕機で細かくしたものが「竹チップ」。竹チップを基材にすると、竹の中の微生物の力で発酵が進み、生ごみが分解されます。

とにかく始めてみようと初年度は補助金もない中で、有志の15会員からスタート。

2年目の2019年度は長野市の「ながのまちづくり活動支援事業」の対象事業になり、2021年度末で丸3年になります。

竹チップ活用と「どんぐり・るるネット」持続可能へ

みどりの市民が西山淡竹会から竹チップを購入し、配達回収を委託。

回収した堆肥は、モーリー農場(社会福祉法人 森と木)とエコーンファミリー(社会福祉法人 花工房福祉会)の畑で活用しています。

2021年12月1日現在、会員数は62人に増えました。
西山淡竹会は長野市内の各家庭や拠点をトラックで周り、年5回(2コースで計10回)、竹チップを配達し、堆肥化したものを回収しています(自分の畑で堆肥を使う人には、竹チップ配達のみ)。

2021年度、竹チップ配布は286箱、段ボール堆肥回収は131箱になりました。

3月9日、どんぐり・るるネット会員の交流会が開かれ、13人が参加。

年度末にいつも行われている交流会では、事業の活動報告と、会員から1年間段ボール堆肥に取り組んでの感想などを話す時間があります。

今回は今年度末で補助金交付が終了するため、みどりの市民副代表理事の渡辺ヒデ子さんから、継続させるための変更点の説明がありました。

  • 会費の値上げ
  • 竹チップの配達・回収を西山淡竹会から花工房福祉会に変更
  • 配達時に行っていた生ごみ堆肥化のアドバイスを、今後は地域にいる生ごみ減量アドバイザー、あるいはNPO法人みどりの市民が担う

などで、新年度のスタートに先立ち直接会員に案内するそうです。

どんぐり・るるネットの交流会=3月9日、長野市ふれあい福祉センター

「会費の値上げは非常に迷ったが、続けるためには値上げせざるを得ない。竹チップを製造する西山淡竹会が配達を担う今までのやり方は非常に効率良かったが、さまざまな事情から、花工房福祉会に委託先を変える。農業と福祉を結び付けた取り組みは各地でたくさん行われているが、私たちは環境と福祉を結び付けてやっていきたい。これまでとは違った新しい出会いがあると思うので、変更を前向きに考えたい」と渡辺さん。

補助金が終了するのに伴い、継続のための非常に難しい判断。

会員から意見が出ました。

「ごみ袋代より高いお金を負担しているのでは、段ボール堆肥の活動は広がらない。ごみ減量に対して行政がもっと真剣になって考えてくれよと言いたい。市民団体がしっかりごみの減量、堆肥化に取り組んでSDGsに協力している。『3年補助金を出したから自立して』ではなく、これを市の取り組みとしてやってくれと。民間に任せきりにしないでほしい」

これに、他の会員からも賛同の声が上がりました。

NPO法人みどりの市民 渡辺ヒデ子さん

渡辺さんは「こういった取り組みをしていくときは、もっと世論づくりをしないといけないが、それが足りていない。指導者や実践者、大きな組織を巻き込みながら結びついてやらないと、『どうせ道楽でやっているんだろう』と思われてしまう。もっと人数が増えてくれば市も事業化を考えてくれると思う。これは私たちNPO法人だけでなく、利用者の声として届けていかないといけない」と会員に伝えました。

微生物とともに「ありがとう」が循環。生き甲斐へ。

基材の配達と堆肥の回収では、

「『(家に)来てもらえるから続けられる』と言葉をかけられる。

ありがとうと喜んでもらえる・・・」

どんぐり・るるネットの関係者はそう話しています。

役に立っていると実感できること。それは人間の生きがいの根源的なもの。

人との関係が希薄化する地域社会で、どんぐり・るるねっとの活動は、人としての生き方の問題にもつながります。

生ごみが、ただの「ごみ」ではなく、西山地区の竹と、そこにいる微生物といっしょに長野市内を巡って、「ありがとう」が循環しています。

これがもっと多くの長野市民に浸透していけば、ごみ問題の解決以上に大きな広がりへとつながりそうな予感がします。

どんぐり・るるネットは、2022年度に向けて、新たな会員を募集中。5月中旬に第1回の回収がスタートします。

これからの暖かい季節は、堆肥の温度が上がりやすく、始めるのに良い季節。

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