年々増える児童虐待相談件数
児童虐待相談件数の増加は全国的に、そして県内でも課題になっています。
県内では、〈図1〉のように児童相談所への相談件数が過去5年間増加し続けており、特に児童虐待を含む養護相談は大幅に増加しています。令和元年度の養護相談のうち、実に7割以上が児童虐待に関する相談でした。
〈図1〉過去5年間の相談種別受付件数
〈図2〉養護相談の理由別相談結果
児童虐待相談が増えている要因の一つとして、産後うつや子育てへの不安、ストレスを抱える親へのサポート体制の不足があります。全体の子どもの数が減っているのに相談件数が増えているという現状を考えると、より細やかな支援が求められます。
家庭によって抱える問題は異なります。どんな内容のサポートが必要か、サポートする側にはどんなことが必要なのか。長野市内で事業を行う子育て支援団体に日々の活動について聞きました。
長野市で子育てしていて感じることは?
先日、長野県立大学(長野市)の財政学ゼミの3年生4人が、NPO法人ワーカーズコープ篠ノ井事業所が運営する「篠ノ井こども広場 このゆびとまれ」(長野市)を訪れました。子育て中の女性たちに、長野市で子育てしていて困っていることなど、子育ての現状をリサーチすると聞き、同席させてもらいました。
乳幼児を連れた7人の母親が出席。実家が近い方、移住してきた方、育休中、専業主婦の方など、子育て事情は様々。「自分が病院に行きたいとき、健診を受けたいときに子どもを預ける先がない」という人がいる一方、「一時保育を頼みたいときに月初めに電話で予約しないと予約がいっぱいになってしまう」という切実な悩みが聞かれました。
その中で「外に出て、少しでも人の役に立ちたいけど、子どもがいるからできない。いつも『ありがとう』というばかり」という声が。孤独感を感じやすい子育て中に、どうしたら母親の孤立を防げるでしょうか。コロナ禍で、孤立の傾向はますます高まっています。
コロナ禍で制限される子育て支援事業
出産後、約10%の女性が経験すると言われる産後うつ。抑うつ気分や過度の不安などが2週間以上続くなどの症状が続くもので、出産後、数カ月以内に発症。産後は誰にでも発症の可能性があります。コロナ禍により、両親学級の休止、立ち会い出産、産後の面会の制限、コロナ禍による生活様式の変化などにより、ますます産後うつの発症リスクが高まっています。
篠ノ井こども広場では、母親に広場の存在を知ってもらうために、市の助産師・保健師による新生児訪問の際に利用案内をしたり、市立図書館の「赤ちゃんのおはなし会」で同広場のコンシェルジュが宣伝に行ったりと、周知活動を行っています。
しかし、現在はコロナ禍で広場の利用が制限されています。1日を1時間半ごとに3つの時間帯に区切り、年齢別に受け入れ。前日予約で時間帯ごとに親子12組かつ36人未満までに(2020年11月現在)。利用回数も週2回までに限定しています。以前は平日毎日、大人・子ども合わせて100人ほど利用。そのうち70人ほどが午前中に集中していたため、齋藤由美子館長「利用できない親子がどうしているだろうかと気がかり」と話します。
途切れさせず、すべての母親に届く支援を
若かったり、夫にDVの傾向があったり、親や親類を頼れないなど、孤立しやすい母親が孤独感を深めないように、周りが継続して支えていくことが大事です。そのために、一度ひろばに足を運んだ女性たちと関係を切らさない工夫が求められます。齋藤館長は、特に気になる家庭には地道に電話を掛け続けて、「丁度良いサイズの衣類があるから取りにおいで」「こんなイベントがやるよ」などと声を掛け、広場に来るきっかけを提案しているといいます。
それでも自分から救いの手を求めに動けない親もいます。しかも、コロナ禍により1カ所に多くの親子を集められないことも重なり、支援の手が簡単に途切れやすい状況になっています。
支援される親子を待つのではなく、支援する側がこちらから訪問するのも一つの方法です。そんな活動の1つに「ホームスタート」があります。イギリス発祥で全国100カ所以上で行われていますが、長野県内では長野市で、NPO法人ながのこどもの城いきいきプロジェクトが実施しています。養成講座を修了したボランティア「ホームビジター」が産前産後の母親の自宅を週1回2時間、4回訪問し、話を聴いたり、一緒に家事をしたりするなかで子育てへの不安な気持ちに寄り添います。ホームビジターは育児経験のある先輩ママのボランティアです。子育て支援センターに行く元気がなくなってしまっていたり、専門家に相談しづらい悩みを抱えていたりする母親に、ピンポイントで支援の手を差し伸べる活動になっています。
同ホームスタート担当者によると、2019年は利用者が少なく、コロナ禍になり更に利用者がほとんどいない状態が続いていましたが、8月から9月にかけて急増し、2020年11月現在で10件近くの家庭が利用中とのこと。事務局には、「コロナ禍で、実家と行き来できなくなった」「転勤で頼れる人がいなくて困り果てている」という切実な声が寄せられています。
ホームビジターで40代の女性は、夫が転勤族で知らない土地での子育ての大変さを経験し、自分の経験を生かせることを探しこの活動を知ったと言います。各家庭の状況によって、ホームスタートに求めることは違いますが、「まずは、話したいこと、伝えたいことなど、何でもどんどん言ってもらうよう、傾聴に徹します。後は、褒めたり、認めたり、肯定感を持ってもらえるようなサポートを心がけています」と話しています。
支援者側は、ただSOSを待っているだけでは、必要な時に必要な支援を届けることができません。SOSをキャッチするための関係づくりや、どんな状況の母親も取りこぼさない細やかな支援の形作りが重要です。形式だけではなく、地道な種まきの積み重ねが的確な支援につながっていきます。生まれてきた大事な命を一人でも多く救うために最も重要なのは、産後すぐの支援であり、スムーズに支援を行うためにも出産前から妊婦と関わり、途切らせない支援体制が必要です。
取材:2020年10月26日 篠ノ井こども広場このゆびとまれ