新しい保育の形 ベビーシッターが担う小さな保育園「ことりの家」

ベビーシッター経験者が保育を担う「ことりの家」

NPO法人アリスチャイルドメイトは2023年4月、生後3カ月~3歳児未満を対象にした認可小規模保育園※「ことりの家」を須坂市小河原に開園しました。

ベビーシッター経験者(後述)が、スタッフとして働くことがこの園の特徴です。

家庭にいるような保育園

園舎は一般住宅をリフォームしました。現在、3歳児2人、2歳児3人、1歳児5人の園児10人と一時預かりの2歳児1人が利用(2023年12月現在)。保育職員は、元保育士やベビーシッター経験者が常時5~6人で行っています。

園を開放して、新しい形態の保育を体験してもらう

「ことりの家」ではこの新しい形態の保育を、保護者や子どもたちに体験してもらおうと、毎月、園を開放。12月15日(金)に年間行事の一つである「クリスマス会」を行いました。

当日は、母子3組が見学者として訪れ、園児や職員と一緒にクリスマス会を楽しむ姿が印象的でした。

園児も見学者も一緒に楽しんだクリスマスパーティー

見学の幼児たちは、園児と一緒におもちゃ遊びや絵本の読み聞かせなど、日常の保育活動に参加。母親は園の雰囲気や、従来の保育園や幼稚園との違いを体感します。

見学の幼児たちが園になじんだころ、職員が扮したサンタクロースとミニーマウスが登場。一緒にゲームやダンスをしたり、歌ったり・・・。

子どもたち全員、サンタクロースからクリスマスプレゼントを一人ひとりもらい大満足の様子でした。

見学に訪れた参加者、その理由は三者三様

2歳6カ月のAちゃんと訪れた須坂市在住のKさん。

「大規模保育園では保育室が年齢別になっていますが、ここでは年齢が異なる子どもたちが同じ空間で一緒に保育を受けられるんですね。部屋の大きさがコンパクトな分、目が行き届くと思います」

1歳8か月のリズちゃんと訪れた須坂市在住のソフィアさん

「Kさんに誘われて来ました。低年齢から預けていれば集団生活に早く慣れ、社会性が身につくと思います。家庭的な雰囲気ですね」

1歳4か月のTちゃんと訪れた須坂市在住のMさん。

「月に2回の一時保育を利用したいと思っています。自分がリフレッシュしたいからです。この子は夜泣きがひどく、眠れない夜が幾晩も続くと心身ともに疲れ切ってしまいます。2週間に一度、たとえ半日でも子どもから解放されることで気持ちにゆとりができ、家族に優しく接することができると思うんです」

※認可保育園の定義と認可小規模保育園

認可保育園の定義

①国から認可を受けている。
②園の人員配置や設備基準が厳しく設定されている。
③自治体が運営元である。

認可小規模保育園とは

国の認可事業となった小規模保育施設。2015年4月よりスタートした、子ども・子育て支援新制度の事業の一つで、定員60人の認可保育園に対して認可小規模保育園は6人以上20人未満。原則0~2歳の子どもを対象としている。

母親がリフレッシュするためのお手伝い

「ことりの家」は退職した元保育士やベビーシッター経験者が保育を引き受けます。園長の黒石和子さんも10年間ベビーシッターとして多くの子どもとその母親を支援してきました。

だからこそ、「母親の気持ちに寄り添う保育」を園の運営指針としていると言います。

目の前にいる母親が何に対して不安や悩みを持ち、何を必要としているのかを聴き、察して「私たちでできることは、できる限りお手伝いしたい」と話してくれました。

「ことりの家」が母親の気持ちに寄り添う支援の一つにリフレッシュ保育があります。

園開放のクリスマス会に参加した前出のMさん。家族は夫と他の保育園に通っているTちゃんの姉の4人家族。夫は家事にも育児にも積極的に参加してくれると言います。

「認可保育園ですから、Mさんの場合、Tちゃんは入園できません。でも一時預かりは可能です。現在も産休中というおかあさんが上の子をここに定期的に預けています。一時預かりなら、どんな場合でも条件なしで受け入れます」と黒石さん。

※認可保育園に入園するには、「仕事をしている」「妊娠中あるいは産後間がなく上の子の保育が困難」「保護者が病気やケガ、障害を有していて保育が困難」といったような「保育の必要性」の認定を受ける必要がある

子どもの食べる力を育てる”食育”も保育の一環

保育園・認可小規模保育園は、原則として自園調理(保育園内に給食調理施設を持ち、調理する)が定められています。

食育も保育の一環だからです。給食で1日に必要な栄養素を摂取するだけでなく、特に乳幼児は1日の活動分に加え、「発達」するための栄養を給食が補います。

当日はクリスマス会にちなんで、給食のメインは“食べられるクリスマスツリー”でした。ポテトサラダが円錐状に盛られ、ブロッコリーがその周りをデコレーション。葉の茂みを表現しています。

積もった雪をマヨネーズで演出。根元にはトリのから揚げが並び、てっぺんには大きなお星さまが輝いていました。

栄養を摂り、好き嫌いなく、なにより食べることを楽しんでもらいたい―。そんな思いがいっぱいの給食の時間でした

母親を支援するこれからの新しい保育の形態

これまで20人未満の小規模保育園は認可外保育施設でしたが、国の認可事業となったことから、安心できる保育園、少人数で乳幼児に特化した保育が受けられる保育園として、小さな子どもの保育施設を探す保護者にとって新たな選択肢の一つとなっています。

働く母親の就業支援とともに、孤立しがちな母親が追いつめられないためのサポートの一部を、新しい保育の形態である認可小規模保育園は担っていくとみられています。

「少々年齢高めの職員も多いですが、全員子育て経験者として、ゆったりした気持ちで仕事に臨んでいます」と黒石さんはにこやかに話してくれました。


保育のスペシャリスト・ベビーシッター

この園の特徴であるベビーシッター経験者のスタッフとして存在。べジーシッターについて紹介します。

「ベビーシッター」は自宅で親の代わりに有料で保育を担う人のことで、欧米では一般的です。日本では特に定義はありませんが、近年、NPOなどの保育支援の団体や、保育園などがサービスを定着させてきました。

ここでいうベビーシッターとは、保護者の代わりに依頼者の自宅や託児所など指定の場所へ出向き、乳幼児から小学生までの子どもたちに対して保育を行う人のことを指します。保育だけでなく、食事や遊び、コミュニケーションを通じて子どもたちを成長させる役割も兼ねた、いわば保育のスペシャリストとも言えます。

30年間ベビーシッター事業を展開するアリスチャイルドメイト

NPO法人アリスチャイルドメイトは、そのベビーシッターの普及に先進的に取り組む団体の一つです。長野市近郊を対象地域に、ベビーシッター事業を展開。

NPO法人設立は2001年ですが、事業開設は1994年。ベビーシッターサービスに取り組んで今年で30年になります。 現在は訪問型のベビーシッターサービスから派生した、小規模保育園や院内保育園、託児室など保育園運営にも事業の幅を広げています。

開設当初は「子どもの面倒を見るのは母親か祖母といった身内が当たり前」が時代の風潮。

「サービス内容をどう伝えたらいいのかわからず、仲間3人とチラシを作り、配るところから始めました。すでに核家族が増えていたにもかかわらず、子どもを第三者に預ける、ましてやお金を払って、という考えはあまりなく、そこを理解してもらうのが大変でした」

アリスチャイルドメイトの代表理事・福原裕美子さんは、スタート時を振り返ります。

アリスチャイルドメイト代表理事の福原裕美子さん

実際にベビーシッターサービスをスタートしてみると、一度利用した人から「もっと早くにお願いすればよかった!」という声が届くようになり、利用者は年々増えていきました。

ベビーシッター事業の社会的認知度も高まってきたころ、信濃町のスキー場から声がかかり、冬場に設置される託児室を預かることに。

これを機に育児に困難を抱える家庭への養育支援や、病院の院内保育園などの仕事を増やしていき、自分たちで保育園オープンへと踏み出したのです。

ベビーシッターの仕事は実務だけではない

ベビーシッターの仕事は「実は目に見えない支援の方が大きいんです」と福原さんは話します。

母親の孤立感に寄り添う

「人と話がしたい」「同じ空間に人がいるだけで安心する」「話を聴いてもらえる」という母親が多く、こういった母親の思いや悩みを受け止め、寄り添う支援がベビーシッターの役割でもあると言います。

母親に代わって子どもの面倒をみたり、家事を手伝ったりすることが本来の支援。しかし母親との“おしゃべり”で母親の気持ちを受け止めることがメインとなってしまうことも多いとのこと。

入園前、母親と子どもだけという生活になりがちな中、「特に夫がサービス業という場合は、土日もなく、夜遅くの帰宅になり、その間ずっと一人で子どもと向き合っているというのは、精神的にすごく大変なこと」と福原さん。

子どもの面倒を見てもらうことより、話し相手になってもらうことを求めているケースが多いことがうかがえます。

母親の育児不安に寄り添う

さらに福原さんは、「これまで順調に生きてきた人ほど育児ストレス、産後うつ病、育児ノイローゼなどに陥りやすい」と話します。

大学、就職、仕事と何の問題もなくクリアしてきた人も、理屈や努力だけではどうやっても乗り越えられない育児の壁を経験した時、「こんな私ではなかった」と挫折感を持ったり、育児への不安を一人で抱えたりする傾向にあると指摘します。

「ベビーシッターが訪問することで、母親と子どもだけだった空間に風が入ります。風が入ることで部屋の空気も母親の気持ちも随分とゆるむのです。夫と協力関係ができているか、といった悩みも、ちょっと私たちが中に入ることで、解消することもあります」

「ことりの家」はベビーシッターサービスとは別の形で母親を支援

夫の転勤などで知人がいないばかりか、自分が育った地域ではない、文化も風習も違う場所で出産し、子育てをしている母親が多いことを下のグラフは示しています。

また、母親自体の親は50~60代ぐらいで、多くの人は仕事をしている、ボランティアや趣味に多くの時間を当てている、という生活をしています。

ひと昔前は、出産した後は実家に帰って、実母などの助けを借りながら、子どもの世話の仕方を身につけていきましたが、今は「おばあちゃんには、おばあちゃんの生活がある」ため、実家に帰らないばかりか、近くにいても「ちょっと子どもを見ていて」と頼むことができないのも現状。

そういった母親の産前・産後の支援もベビーシッターが請け負えるのです。


補足

どのような社会状況を背景にして、認可小規模保育園は国の認可事業となったのか

一番は待機児童問題

待機児童の現状

図表1-1から読み取れるように、少子化傾向は続いているにもかかわらず、待機児童数に大きな減少は見られません(図表1-2)。過去10年間で全国の待機児童数は1.8万人から2.6万人の間を推移しており、6年連続で 2万人を超えています。

下のグラフでは、1・2歳児の子どもを預けて働きたい女性が増えるに伴い、保育所を必要とする子どもの数は増え続けていることが読み取れます。

しかし、図表1-3にあるように、待機児童の8割以上は0~2歳の低年齢の子どもです。 そのうち、特に1・2歳の子どもが多く、全体の7割近くを占めています。

子どもの全体数は減っていても、保育所を必要とする0~2歳の子どもの待機児童数は減少していないのが現状です。

待機児童問題対策としての小規模保育

小規模保育は当初、自治体において実施されました。自治体に採用されてきた理由は、

①0~2歳の低年齢児には、小グループで保育者の目が行き届く小規模保育が適当、という意見がある。

②一般的な認可保育所よりも保育者の配置が手厚く、子どもと保育者との関わりの密度が濃くなる傾向があり、これも低年齢児の保育体制としては好ましいとされている。

③専用の園庭などがない点も、歩行が安定し活動範囲が広がる前の低年齢児であれば、大きなデメリットとはならない。

以上のような事由から小規模保育園の認可が進められてきました。

また、行政の監査の目と補助金が入ることで、保護者にとっては一定の安心感があることも大きな事由です。

全国小規模保育協議会刊行「小規模保育白書」参考

<取材・執筆>ソーシャルライター 佐藤定子