「遺贈」という新しい社会貢献のカタチを学ぶ

ちょっと耳慣れない「遺贈」という言葉。地域や社会をよくするための活動をしている諸組織・団体は資金調達に悩んでいますが、「遺贈」なるカタチの寄付が“救世主”になるかも知れないことから、「遺贈寄付の入口に立つ」とのフレーズを掲げた学習交流会(NPOカフェまんまる)が2023年12月7日、長野市で開かれました。20人ほどの参加者は、その可能性と課題(考えられる垣根)を深く学びました。

主催したのは市民協働サポートセンターまんまると「ながの協働ねっと」です。3年前から、寄付をする人の気持ちを考えることやクラウドファンディング、バースデードネーションの進め方といった寄付をテーマにした交流会を、毎年12月の「寄付月間」に行なってきており、ことしは「遺贈」にスポットをあてました。

遺贈のメリットと受けるときの注意点

初めに成迫会計グループ「相続手続支援センター」の宮嵜忍さんが遺贈寄付のキホンについて説明。遺贈寄付の流れを解説したあと、遺贈のメリットと寄付を受けるときの注意点を紹介しました。

このなかで、相続人がいない場合は故人の相続財産は国庫に帰属することになるが、遺贈先を決めて遺言書に記しておけば承継先の団体の社会貢献活動に活かせること、相続税・所得税の節税メリットがあること、自分の「想い」を現実化できることなどのメリットを提示。また、遺贈を受けるときは法定相続人の遺留分に注意すること、財産を現金化しすべて清算されている「清算型遺贈」がお勧めであることなどを伝えました。

遺贈寄付のキホンを説明する宮嵜さん

遺贈を受け付ける団体から体験談

パネルトークでは遺贈を受けている団体・組織として、NPO法人ライフデザインセンターの小川和子さん、日本赤十字社長野県支部の山崎慎哉さん、公益財団法人長野県みらい基金の高橋潤さんが、それぞれ体験談を語りしました。

小川さん
山崎さん
高橋さん

遺言書を作成するタイミングが難しい

小川さんは寄付を受けた事例を紹介するとともに、遺贈は遺言書に記載する必要があるが、それをいつ作成するかのタイミングが難しいと話します。元気なうちは相続財産を確認して遺言に記す気持ちにはならず、齢を重ねてからでは判断能力が衰えて遺言書を作成することができなくなってしまうことがあるということです。ライフデザインセンターでは毎月セミナーを開催しており、そのなかで遺贈についても説明しているとのことでした。

山崎さんは赤十字の事業を理解して遺贈として支援してもらえるのでありがたい。遺言執行者や裁判所から遺贈の連絡を受けても、ふたをあけて見るまで詳細がわからないという不安があるとも。不動産の遺贈があった事例を紹介しながら、「現金化した上での遺贈だと助かる」と遺贈のカタチについて言及しました。

高橋さんは、どんな活動に使われるかの質問が遺贈希望者からあるので、登録団体の紹介をしていること、司法書士など専門家が入ることでスムーズに進む。また一人暮らしで法定相続人がいない人が増えて、年間で525億円が国庫に入っていること(2017年度、人口比で推定すると長野県で8億円)や、相続によって県外に流失している家計資産が大きいことなどを訴えました。

体験談を語ったパネラーのみなさん

遺贈への期待は大きい

パネラーからは、建物だけでなく農地や山林も含めた包括遺贈にしてほしいとの要望があったことや、遺贈でなく生前に寄付したいけれど家族には内緒にしてほしいと言われご家族のことを考えると対応に苦慮した事例、有価証券の遺贈がありその後の手続きに苦慮したケースなども紹介され、遺贈がスムーズに進むためにはさまざまな検討すべき点があることも浮き彫りになりました。

パネラーからは「本人から話をよく聞き、本人の判断能力がなくなる前に財産処分ができるよう相談に乗っている」(小川さん)、「災害義援金の窓口になっているが、それら義援金はすべて被災者に届けられる。しかし、赤十字に入ると誤解している人もいる。みなさんから寄せられる赤十字活動資金(会費・寄付金)は日常の事業に使われるが単年度予算に組まれており、遺贈などでまとまった寄付があると災害救護専用の車両購入整備や救援物資の更新などに当てられるのでありがたい」(山崎さん)、「大きな金額でなく、数十万円程度の遺贈も可能であり、それが普通と思える社会になってくれたら」(高橋さん)など遺贈への期待も。

赤い羽根共同募金会のパンフ
日本赤十字社のパンフ

日本の寄付文化について語らう

後半はワークショップを行ない、「日本の寄付文化について」「1,000万円の寄付があったら、どのように未来に向けて活用するか」という「お題」が主催者から与えられ、グルーブごとに自由に交流。

グループでは、遺贈を誰に相談したらよいかわからない、日本にはお金のことはタブーで寄付の文化が根付いていないのではないか、ふるさと納税が始まってからはリターンが求められるようになった、何に使われるか必ず聞かれる、コンビニなどで小銭の寄付をしているなどの声が聞かれました。

この日は市民活動をしている人たちのほか、寄付を受ける窓口になっている人、教育関係者など多様な分野の参加があり、寄付の文化が広がるよう盛り上げていきたいとの気持ちがあふれる学習交流会となりました。

ワークショップで寄付の理解を深める①
ワークショップで寄付の理解を深める②

遺贈の事例を機関誌「まんまる」で紹介

市民協働サポートセンターでは、この日の学習交流会に先立ち、機関誌「まんまる」(秋号)「『社会への想い』を届ける遺贈寄付」を特集し、受遺者の体験を紹介しました。今回パネラーで参加した小川さん、高橋さんのほか一般社団法人全国レガシーギフト協会の齋藤弘道さん、長野工業高等専門学校教授の藤澤義則範さんのお話を掲載しています。

機関誌「まんまる」(2023秋号)
機関誌「まんまる」(2023秋号)

まだ一般になじみが薄く難しいと思われがちな遺贈ですが、「どこかに現金寄付をしたり、自分の持つ土地を地域のNPOに貸し出してみたりと、元気なうちから寄付にチャレンジしてみる。それにより、自分が元気づけられたりもっと使ってもらいたいと思ったりしたら、遺贈寄付も視野に入れてみる。普段の寄付の延長線上に考えていけば、ハードルは下がるかもしれない」(機関紙まんまるのなかでの高橋さんのコメント)と考えることができそうです。

NPOカフェまんまる参加者

ソーシャルライター 太田秋夫(終活アドバイザー)