知ればイメージが変わる生きものワールド

夜の闇にライトを照らせば、次々と虫が寄ってくる。パタパタと近づいてくる蛾(ガ)を見つけては、「カワイイ」「きれい」と喜ぶ子どもたちがいました。

ずんぐりした胴体に、真珠のように真っ白な羽やキラキラ光る緑の羽。次々と灯りに寄ってくる姿が愛らしい。「地味で気持ち悪い」といったイメージがあった蛾も、一匹ずつよく見ていけば見方が変わる。
ちなみに、学術的・専門的には、「匹」ではなく一頭・二頭と「頭」で数えるそうです。

一般的に暗いイメージを持たれがちな蛾は、生物学上では蝶(チョウ)と同じ「鱗翅目(りんしもく)」というグループに属します。日本には5,000種類以上いると言われますが、そのうち蝶は5%ほどしかいません。

昼間に飛ぶ蝶は、明るいイメージ。交尾する相手に見つけてもらいやすいよう派手な色をしています。一方、夜行性の蛾は、天敵に見つかりにくいよう目立たない色をしている種類が多い。その目立たないはずの蛾を好んでエサにするコウモリは、超音波を使って捕らえています。

蝶と蛾を見分けるポイントのひとつは、触覚の形。蝶の触覚は先がマッチ棒のような形をしている場合が多いのに対し、蛾の触覚は先がとがった形をしていて、時にはくし状になっている場合がある。一部例外があるため、両者を完璧に見分ける方法は存在せず、フランス語やドイツ語には、蛾と蝶を区別する表現すらないらしい。

思わず「へぇー、そうなんだ」と言いたくなることばかり。知らなかったことを学ぶと、見方がまるで変ってくる。子どもたちの蛾を見る眼が違ったのも分かる気がします。

参加して知った生物多様性

動植物を観察しながら多様な「いのちのつながり」を学んだのは、特定非営利活動法人「長野県NPOセンター」と同「生物多様性研究所あーすわーむ」とが主催して2021年11月と22年8月に開いたSAVE JAPANプロジェクト親子で探検!牧場の生きものワールド」。

「日本最古の洋式牧場」と言われ130年以上の歴史を持つ神津牧場(群馬県甘楽郡下仁田町大字南野牧250)で維持されてきた草原環境をフィールドとして、草原に生きる動植物を観察しました。

8月には、牧草地と林の中にいる虫を観察するためトラップを仕掛けました。1分半の短い動画で、雲の中のような世界をご覧ください。

濃い霧の中で虫トラップをしかけました

シカの黙食による損害は数百万円!

牧場の牧草は、タネをまいて育ててきたもの。人手がかかっているし、維持管理するための大型機械代と燃料代もかかっている。刈り集めて保存すれば、牛たちが冬場に食べる蓄えになる。
それらを黙って食べてしまうのが、野生のシカ。年間の被害額は、数百万から一千万円を超えるほどになるそうです。

どれほど食べられているのだろう。
「柵で囲んだらシカに食べられなくなるのだろうか?」と仮説して、実験してみることにしました。

11月に柵をつくり、翌年8月にまわりの草の成長を見比べると柵の中の方が、草丈が長い。たしかにシカに食べられているようでした。
では、「牧草地のまわりを柵で囲んだら」と思いましたが、広い敷地をすべて囲むには相当の費用がかかるうえ、雪の重みで歪んでしまえば手入れが大変です。地域の猟友会がシカを捕らえるワナを仕掛けても、繁殖力が高いシカの数を減らすには及びません。

どれほどの数がいるのだろう。
ライトで夜の牧草地を見渡せば、光るシカの目を照らし出すことがあります。プログラム参加者も自動車に乗って、夜の牧草地を見て回りました。牧場長はある夏の晩に、100頭以上の群れを見たことがあるそうです。さすがに、それほどの群れには出会えませんでしたが、遠くに見えたいくつかの光に「シカがいた」と、参加者も目を輝かせました。

ライトセンサスの一場面。ここでは池の上で蛾をエサにするコウモリを照らしました

牧草地で学んだ「いのちのつながり」

牛が牧草を食べ、朝と夕方に牛乳を提供してくれる。乳を出さなくなった牛は肉となり、参加者は牛肉たっぷりのハヤシライスをおいしくいただきました。
シカは牧草を黙って食べていき、たまたまワナにかかれば肉と皮を提供してくれる。

牛やシカのふん(糞)は、ミミズやふん虫がエサとして分解処理し、土へ還してくれる。豊かな土が、また牧草を育てるのに役立つ。ミミズや虫はアナグマのエサになり、蛾はコウモリのエサになる。

アナグマとミミズの話は、それぞれ10分ほどの動画で見ることができます。

巡りめぐる「いのちのつながり」は、牧草地としての環境が長年維持されてきたからこそ成り立っている。さまざまな生きものがいて、すべての「いのち」がつながっている。

話を聞いてじっくり観察すれば、「虫がニガテ」と言っていた子どもが「キレイでかわいいガ」を追いかけている。知らなければ「コワイ」「キタナイ」と嫌われる生きものも「いのち」をやりとりしながら、しっかり生きている。環境を守ることは、多様な「いのち」を守ること。動物も虫たちも、そして私たち人間もみんなつながっていることを学びました。

<アンケートに寄せられた参加者の声>
・コガネムシの中でもいろんな色があってきれいだった。たとえ人間から嫌われている虫たちや動物たちでも絶滅してしまえば生きづらくなってしまう生き物がいるということを知って、どの生き物にも立派な人生があることを知り感動した。(小学6年生)
・フン虫が思ったより、きれいだった。しかけたトラップの中身を荒らした生き物を知りたい。シカに食べられないようにしかけた柵の中で生えている草と、そうじゃない草の背のちがいが大きくてびっくりした。(小学6年生)
・夜の「ガ」の観察はとても面白かったです。(30代)
・体験のイベントは子どもたちにとって、これからの将来を考えるうえでとても良いと思います。環境についても勉強のきっかけになります。(40代)

プログラムは2022年秋から23年夏へ続きます

秋・春・夏の3回、連続性のある野外プログラムで、草原とその周辺環境を生息地とする野生動物の痕跡や巣穴などと、その環境を織りなす草原性植物を観察する予定です。

2022年秋は、11月6日(日曜日)。みんなで動物のおすまいづくりをします。
詳しくは長野県NPOセンターのサイトでご覧ください。

また、全国各地の取組は、SAVE JAPANプロジェクトのサイトでご覧いただけます。

SAVE JAPANプロジェクト「親子で探検!牧場の生きものワールド」
主催:特定非営利活動法人 長野県NPOセンター、特定非営利活動法人 生物多様性研究所あーすわーむ
協力:(財)神津牧場、麻布大学野生動物学研究室、佐久市市民活動サポートセンター(さくさぽ)
後援:佐久市
協賛:損害保険ジャパン株式会社

文責:ソーシャルライター 吉田 百助