地域の優れたモノとヒトをつなげ、ナガノの未来を耕す

長野市中央通り沿いの3カ所で、毎月第3土曜・日曜に小さな屋外型定期市「シーソーマーケット」が開かれています。地域の良いモノと地域に暮らすヒトを結ぶ場として、市街地の新しい風景の一部となりつつあります。

その運営母体であるNPO法人「シナノソイル」を紹介します。

「まちなかマーケットで、買い物の枠を広げたい」

「シーソーマーケット」は、毎月第3土・日に、善光寺界隈の「MONZEN HAKKO」、権堂の「古民家ダイニングバーGOFUKU」、そして中央通り沿いのセレクトショップ「FREAK’S STORE」(フリークスストア)」の3カ所で県内の大学生が主に販売スタッフとして活躍しています。

北信近郊の安心安全な農産物や食品、サスティナブルなクラフト商品を厳選し、時に出展者に紹介してもらいながら、取り扱い商品も少しずつ広がっています。

「シーソーマーケット」の名前の由来は(シー=シード・英語で種・SEED)「良いものと出会い・選べる」という豊かさの種を、この長野の土壌(ソー=ソイル:英語で土壌SOIL)で育み、もっと身近にしていくことから。

スタッフの佐藤美槻さんは「自然豊かな長野で、農家の方が作る身体に良い安心なモノがあるのに、地元の人に知られず、届いてないことにジレンマを感じていました。少しずつ元気がない長野市街地に危機感も。社会が大きく変化し、転換点をむかえている今だからこそ、安さや利便性だけではない『買い物とは選択』『選んだ理由があるものを買う』というスタイルをこのシーソーマーケットで知っていただきたいのです」と話します。

自然に会話が始まり、ゆるやかなつながりがうまれる

善光寺の参拝客でにぎわう長野市中央通り。その一角にあるお洒落なセレクトショップ「FREAK’S STORE」の店先に足を踏み入れると・・・スタッフと客が楽しく会話をしています。マーケットの開設当初からのスタッフは「実家の富山に居たときも野菜は好きでしたが、多少えぐみがあるものと思っていました。でも長野に来て野菜の美味しさに驚き、感動したんですよね」と笑います。

販売スタッフは旬の野菜をそれぞれ自ら味わい、その特徴や美味しい食べ方など各自の感性で客に伝えています。「このトマトは、ギリギリまで完熟させてから今朝、収穫しているので、甘さが全く違いますよ。そのキノコは、栽培が難しく市場にまだ出回ってないんです。ヨーロッパでは高級食材なんですよ」と解説。

こうした説明を聞きながら野菜を選ぶお客さん、高齢のお客様の手を取り店内レジまで付き添っていく若いスタッフ・・・自然な出会いやゆるやかなつながりが生まれていることも「シーソーマーケット」の魅力の一つです。

スタート当初はコロナ禍もあり点在型のため、集客に苦労していた時期もあったようです。しかし大型店舗などでは効率化・セルフレジ化が進む中、シーソーマーケットの真逆の接客販売スタイルは着実に客の心をつかみます。特に60代を中心とした客層が、若い世代を応援したいと口コミで広げてくれたり、時には野菜に詳しい客からも逆に教えてもらったり・・・スタッフとの会話を楽しむリピーターが増えています。他にはない野菜の質の高さを気に入った人や飲食店のオーナーなどのファンも増え、点と点がようやく線となってつながり始めているそうです。

次世代の意欲の種も育ている

そもそも「シーソーマーケット」は、信州の「農業」と「食」の魅力を活かした事業展開や、他業種の若手と農家をつないできた代表理事の君島登茂樹さんが、自分の店で働く県外出身スタッフたちにも「せっかくだからもっと長野を知ってほしいし、もっと魅力ある人とつながってほしい。川下、川上の両方を体験する中でみえてくる『本当の豊かさ』を知ってほしい」。そんな想いから始まった取り組みだとか・・・。

実際に生産農家と一緒に農作業を行い、直に話を聞いたことで、食品流通全体についてのとらえ方が変わったという学生スタッフの話からも、彼らの気づきや成長を「シーソーマーケット」での活動に還元していることがうかがえます。

地域に深く、新しい風を!」未来の担い手を育てる

シーソーマーケットは始まりであり、まさに種をまく活動です。個性あふれる理事たちとの出会いやつながりから、さらなる活動を視野に入れ、2022年4月にNPO法人「シナノソイル」は正式にスタートを切りました。

すでに長野県庁の環境政策課と組み、県内の大学や高校へのSDGs教育の一環として「シーソーマーケット」を運営する大学生スタッフが出張授業をすることが決まっています。学校から問い合わせも数多くあるそうです。イキイキとした同世代のスタッフの話を聞いた生徒・学生の中から、きっと「ぜひ自分も参加したい」といった未来の担い手が登場することでしょう。

若者や地域企業とともに、SDGs共創事業部の挑戦

NPO法人「シナノソイル」は図のように、「シーソーマーケット」の企画運営に関わる「マーケット事業部」、そして官民学連携でSDGsに向けた取り組みをする「SDGs共創事業部」があります。

SDGs共創事業部の活動は、学生に向けた教育だけではありません。
理事の渋川駿伍さんが日本ポップコーン協会会長を務めていることから、その知見を活かしある企業のSDGsへの取り組みとして、長野で休耕地を活用したトウモロコシ栽培とオリジナルポップコーンを商品化するプロジェクトが始動しています。

共創事業部ではパートナーとして、まさにこれからSDGsに取り組む企業と共に、独自の活動内容を模索しサポートする活動もしていきます。これは、地域企業にとっても感度が高い若い世代と直に交流する貴重な機会です。また参加学生にとっても従来の就職活動の中では見えてこない仕事観や企業研究の場になるなど、あたらしい選択肢が広がる可能性に満ちています。

ナガノの街で、コツコツと種をまき、いつか芽吹き、花開く日のために!

「シーソーマーケット」と「SDGs共創事業」その両輪が活発になればなるほど次世代の人材が育ち 新しいアイディアもうまれることでしょう。これからの5年後、10年後、生産者も生活者も企業も活性化するナガノを目指し、長野の未来に新しい花や豊かな実となる活動を広げていきます。

特定非営利活動法人シナノソイル
住所: 長野市大字鶴賀権堂町2300番地GOFUKU内

関連サイトはこちら http://seedandsoil.market/
連絡先はこちら   seedandsoilmkt@gmail.com 

取材・執筆/ソーシャルライター 大日方雅美