「食べごと」を伝える信州ひらがな料理普及隊/吉田百助

「信州ひらがな料理普及隊」が発足したのは、平成29年5月。それまで北信地方で食農教育活動を実践していた10のグループが集まって、一緒に郷土の「食べごと」文化の伝承をめざしています。

幼稚園や小学校、高校での食育や、地域での料理教室、講座など取り組み内容はグループによってさまざまですが、活動の多くに昭和の初めまで使われていた「箱膳」を用いるのが特徴です。長野県農村文化協会の池田玲子さんと相澤啓一さんの指導を受け、食べごとに込められた4つの意味(①栄養・健康②共食・礼法③いのち・感謝といのり④食料自給・ふるさとの無事・平和)と、食の向こう側にある「いのち」を考え、具体的に体験できる場を用意しています。

8月1日には、更北公民館で「戦中戦後の箱膳」を体験する機会を提供しました。食べることが困難で、満足に食べられなかった時代。「ごはんの量を増やすため雑穀や野菜などを混ぜた『かて飯』ばかりで、具が少ない粥も珍しくなかった」、「春は食べられる草を探し、夏はさつまいも畑になった校庭でツルを集めて命をつないだ」など、当時を生き抜いてきた体験を若い世代へ伝えながら、参加者同士で食べることを考え合いました。

戦中戦後の箱膳

箱膳を前にすると、自然に身が引き締まり、日本人であることと、いのちをいただく食への感謝を感じます。体験した人は一様に「食の大切さがわかった」と言います。飽食の時代と言われて久しい現代、グルメや大食いがテレビ番組で盛んに取り上げられる一方、春先にはキャベツがひと玉1000円を超えるほど高騰し、今は「令和のコメ騒動」と騒がれています。猛暑・地震・台風など自然災害の影響も心配です。

食料の大半を海外からの輸入に頼っている日本だからこそ食べることを考えて、食べものの向こう側にあるいのちに感謝し、ムダにしないように。また、いざという時に備えて農地を荒らさずに済むよう国内で自給できる和食を選ぶように。そして、明日の食べものがある幸せと平和に感謝して食べることの意味を見直す機会を、これからも提供していきたいと考えています。

     執筆:信州ひらがな料理普及隊 事務局 吉田百助
     初出:長野市民新聞 NPOリレーコラム「空SORA」2024年9月掲載