2024年5月5日の子供の日、飯綱町にある「いいづなコネクトWEST」で開催された「NPO法人チームふくしま」の講演会についてレポートします。
この講演会を主催したのは、長野県出身の山田雅彦さん。山田さんは、2011年の東日本大震災の後、NPO法人チームふくしまの活動「福島ひまわり里親プロジェクト」に出合い、心を鷲掴みされます。そして県内で長年にわたって、この活動を広め、なんと2020年から福島県に家族で移住しました。
講演会の第一部では、チームふくしま代表の半田真仁さんと、事務局スタッフの山田沙也加さんによる説明がありました。
福島県NPO法人「チームふくしま」とは?
福島県内の若手経営者が中心となって活動する特定非営利活動法人で、主な活動である「福島ひまわり里親プロジェクト」は、2011年5月からスタートしました。
東日本大震災後、原発事故による福島の観光業や農漁業は深刻な打撃を受けました。その不況から、障がい者施設で受注していた軽作業が一切無くなってしまいます。この状況を打開しようと、復興支援としてひまわりの種を購入し日本全国の人々へ送ることにしました。そして、ひまわりの種のパック詰めを作業所に依頼したことが「福島ひまわり里親プロジェクト」の始まりとなりました。
【福島ひまわり里親プロジェクト 3つの目的】
- 雇用支援…福祉作業所へ軽作業を仕事として依頼
- 教育対策…学校の授業の一環や奉仕活動としてひまわりを育てる活動を通し、福島と全国の学校間の繋がり、生徒同士、学校と地域、親と子の絆を深める「道徳教育」
- 観光復興…ひまわりを活用し、福島への観光や修学旅行のきっかけづくりにしたり、ひまわりを育てた経験をプレゼンテーションする「ひまわり甲子園全国大会」や、ひまわり畑で行う結婚式「ひまわりウエディング」を福島県内で開催し、福島を訪れるきっかけになっている
チームふくしまでは、「福島ひまわり里親プロジェクト」の取り組みを10年以上続け、福島県を除く46都道府県で累計55万人(推定)が「里親」となって福島県の復興を願い、ひまわりを育てています。
各地で育ったひまわりからとった種は再び福島県へ届けられ、全国から届いたひまわりの種が福島県内の小学校、中学校、高校、大学をはじめ観光地、行政、企業、諸団体などに配布され、復興のシンボルとして福島県内各地でも咲き誇っています。
ひまわりの種からひまわり油を搾取する仕事も、福島の福祉施設へ依頼します。搾取したひまわり油は、福島市内のコミュニティバスの燃料として活用します。
こうして福島と全国を「ひまわり」でつなぎ、人々の想いとひまわりの種を循環させていく大規模なプロジェクトが現在も続いています。
また、東日本大震災を風化させず、災害大国日本のこれからに備えるための防災教育として「ひまわり防災検定」の普及も積極的に行っています。講演会当日の午前中には、代表の半田真仁さんによる「ひまわり防災検定」も開かれました。この防災検定を受けた須坂市在住の50代女性に話を聞くと「防災とは常時が非常時を決める・・・という言葉から、日常の人と人とのつながりがとても大事と感じました」と言います。
2022年からは、コロナ禍を経て新たな取り組みとして、さまざまな事情で生活に困難を抱える人がいつでも人目を気にせず、食料品や日用品を利用できる「コミュニティフリッジひまわり」にも取り組んでいます。
■コミュニティフリッジについてはこちらから
長野県内でも広がる「ひまわり里親プロジェクト」
2013年に、山田雅彦さんが長野県内で「ひまわり里親プロジェクト」を広めようと活動をし始めると、この活動に賛同をした県内各地の小・中・高校やNPO法人、地域密着のカフェや高齢者施設などでもひまわりを育てはじめました。
長年、ひまわり里親プロジェクトに取り組む高齢者施設職員の方のお話しによると、当初は職員だけで水やりや世話をしていたが、芽が出てひまわりが伸び始めると、高齢の利用者さんも自然とひまわりを育てる活動に参加したり、気持ちが意欲的になったりします。表情が乏しかった方もひまわりの成長を楽しみにし、明るく会話に参加できるようになったんです」と大きな変化を感じたそうです。
コロナ禍前の2019年には、NPO法人食育体験教室・コラボ(飯島美香代表/長野市)も長野市松代で、福島ひまわり里親プロジェクトの種でひまわりを育て、ひまわり迷路を作りました。
福島との絆を深める活動は長野県内各地でも広がり、継続しています。
■ひまわりの種の購入はこちらから
福島を「世界一同情された被災した街」から「やさしさとおたがいさまの街」を目指して
恩は返すものではなく、送るもの~
を合言葉に、チームふくしまでは、新たな活動にも取り組んでいます。副代表だった吉成洋伯さんが発案した「おたがいさまチケット」の普及活動です。お客さんが次の誰かのために、事前に「チケット」を購入することで、後から訪れる人は無料、もしくは割引きで食事やサービスを受け取ることができるという仕組みです。
発案者の吉成さんが、東日本大震災の避難所で豚汁を作って配っていたときのこと・・・
ある高齢の女性が吉成さんの前に立ち「おらの家は、津波で流されて、じいちゃんもどこかわがんねえ。なんもなくなっちまった。せめて豚汁を大盛にしてくれ」と言われました。
吉成さんは、「一人の声にこたえてしまうと、その先に並んでいる人の分が減ってしまうことになる・・・」と一瞬は迷ったのだが、すぐに、「このばあちゃん、家もなくなって、じいちゃんもいなくなってしまって、可哀相だから大盛にしてやってもいいか~?」と大きな声で尋ねました。
すると、豚汁の配給に並んでいる自分たちも被災者の人たちが、みんな大きくうなづいてくれたので、この女性に大盛の豚汁を注いだのです。
その時、この女性は、「この大盛一杯で、地震の被害もチャラにできる。頑張れる、ありがとう」と涙をこぼしました。
吉成さんは「豚汁で、人生を救える、変えることができる」と感じます。
この体験から、吉成さんは自身の生き方や価値観が変わり、「困った時は、お互い様」その気持ちを形にできないかと「おたがいさまチケット」を発案したのです。
まずは自分が経営する店「BLTバーガー」で始めました。当時、吉成さんは月一回、店舗で子ども食堂も開催していましたが、この取り組みならば、子ども食堂がないときでも、ほんとうに必要な人に美味しいものを届けることができる」と、強い想いをもって進めたのです。
しかし、吉成さんは2022年5月に54歳という若さで急逝してしまいました。
チームふくしまでは彼の遺志を継ぎ、現在では福島県内53カ所、県外15カ所で「おたがいさまチケット」の活動が広がりを見せています。ある店では、全国から視察団体がバスでやってきて、福島の見知らぬ誰かのための「おたがいさまチケット」を購入しメッセージを残していく、という現象も起こりました。
代表の半田真仁さんは講演会で、この「おたがいさまチケット」を導入する側のメリットを次のように話しました。
①導入する側にとっては、ボードとチケットを用意するだけ、という簡易さ。
②お客様に事前に購入してもらうだけなので、売り上げが先に立つ、というビジネスとしてのデメリットはない。
③その取り組みに共感を感じる顧客層に変化がおこり、リピーターが増える。
④ 雇用対策・人手不足の中、その取り組みに共感をする若年層からの支持を受け、インターンなども増加。
⑤理念が企業のビジョンと重なる場合、社内教育、社員教育にも役立つと、大手ハンバーガーチェーンでの導入も決定。
いま、長野県内でも、この活動に賛同してくれる団体や企業を募集しています。
「誰かのために、自分ができることを!」
「みんなのやさしさを、みんなのために」
最後に、この講演会を主催した山田雅彦さんに熱い思いを聞きました。
「私のふるさとである長野県の皆さんにも、東日本大震災+原発事故を体験・体感された福島県の取り組む”お互いさまの街ふくしま”の思いや考え方の話を聞いてほしかったんです。『誰かのために、自分ができることを!』『みんなのやさしさを、みんなのために』といった想いや活動が伝わり、長野県も”お互いさまの街”になっていくきっかけになれば・・・と思っています」
今回、チームふくしまの活動報告を聴いて、簡単には真似できることではないが、NPO活動のヒントがたくさん詰まってるのではないだろうか、ということ。そして個人的には、植木鉢の植物をいつも枯らしてしまうような筆者だが、ひまわりの種を購入し、夏に向けて育ててみるつもりです。
ソーシャルライター 大日方雅美
問い合わせ先
特定非営利活動法人 チームふくしま
福島市野田町6-7-8-B103
info@sunflower -Fukushima.com