#女性の悩みを解決し、年2兆円も見込める「フェムテック」って?

フェムテックの活用で自分らしく、みんなが生きやすくなる社会へ

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<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助
 2023.10.15

あなたは、月経や出産、不妊、更年期など、女性特有と言われる健康面の話を、周りに堂々と伝えられますか? 
または、周りから見て「どう配慮したらよいのだろうか」と気を遣ったり、悩んだりしたことはありますか?

いま、こうした悩みを解決するためのツールやサービスが注目されています。

経済効果が約2兆円/年と推計される「フェムテック」

経済産業省の「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査報告書(概要版)」(令和2年度産業経済研究委託事業)から、フェムテックが経済に与えるインパクトの一部を掲載する。

説明によると「経済効果は、これまで月経に伴う症状、不妊治療、更年期に伴う症状により離職や昇進辞退、勤務形態の変更を余儀なくされていた女性が、フェムテック製品やサービスの利用により、仕事との両立を果たすことで得られる給与相当額を推計したもの。フェムテック関連製品・サービスの売上等、他の条件は含まれていない」とある。

一方、「女性の健康問題による社会経済上の損失」の試算は、年間損失額が7億円近い。
今のままでは7億円を損失し、取り組めば2兆円以上の経済効果があるというフェムテック。

金額のほかに注目したいのは「その他の効果」に、出生数の増加と、正規職員・女性管理職比率の増加が見込まれていることだ。

少子化による生産年齢と働き手の不足は、これまでの社会の歯車を狂わせる。人口の減少は、地域の維持・存続をも危うくする。

女性管理職の比率が低いことは、日本においてSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」がいっこうに前進しない「深刻な問題」になっている。

フェムテックは経済効果だけでなく、日本社会と地域に大きな成果が期待できるようだ。

そもそも「フェムテック」って、なんだ?

英語の「female(女性)」と「technology(テクノロジー)」を合わせた造語。

Female + technology ⇒ Femtech

女性特有の悩みや生きづらさを、最新技術(テクノロジー)で解決するアイテムやサービスのことを指す。

「フェムテック」という言葉は、「2021ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされるほど当時は注目されていた。同じ年に「SDGs」もノミネートされ、「ジェンダー平等」はトップ10に入っている。

そもそものきっかけは、政府が2021年6月18日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2021」と「成長戦略フォローアップ」に、「フェムテックの推進」という文言がはじめて盛り込まれたことだろう。

後者には、「女性特有のライフイベントに起因する望まない離職を防ぐため、フェムテック製品・サービスの利活用を促す仕組み作りを2021年度から支援する」と明記されている。

具体的な支援のひとつは、経済産業省の「フェムテック等サポートサービス実証事業」。
「新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を」と題したサイトにある「想いと目的」を引用する。

仕事も人生も思いきり楽しみ
生きやすい社会のために

フェムテックは、月経や出産、不妊、更年期など
女性特有の健康課題をサポートするツールとして注目されています。

また、人に話すことをタブーとされた女性の健康やライフイベントに関わる悩みをひとりで我慢せずに“みんなで”共有し、助け合う「新しい当たり前」をつくるムーブメントにもなっています。

企業や自治体、周りの人の理解は、何かを犠牲にしたり、何かをあきらめたりすることなくライフイベントも仕事も両立したい働く女性が自分らしく生きることを実現していく。
そしてそれは、誰もが働きやすい環境をつくり、企業の価値、社会の価値につながるはずです。

フェムテックは、産業としては始まったばかり。
採択された実証事業を通じ、多くの人にフェムテックを知ってもらい、
女性はもちろん、男性にとっても、幸せに満たされる社会実現への第一歩になることを願っています。

経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室

https://www.femtech-projects.jp/

他人に伝えることが難しい「痛み」

「頭が痛い」といっても、その程度を他人へ伝えるのは難しい。
ズキズキやガンガンなどの言葉でイメージを伝えても、所詮は他人事。

痛みをわかってもらえないことで、ストレスや別の悩みも生じてくる。こっちは痛みをガマンしながら思うように動けないのに、他人には手を抜いているように見えるのかもしれない。やる気が感じられないと思われるかもしれない。

肩こりや腰痛などにも個人差がある。
そして女性には、生理痛という特有の痛みがあり、労働基準法には「生理休暇」が規定されている

(生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置)
第六十八条 使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

働く女性にとって、生理休暇は国が認めた正当な権利だが、その取得率は驚くほど低く、 しかも年々下がっている。

「働く女性と生理休暇について」令和5年9月28日 厚生労働省 雇用環境・均等局雇用機会均等課より

同資料によると、

生理による不快な症状について、「症状が強いが我慢している」と回答した女性の割合は66.4%。
生理休暇を利用しにくい要因として、「男性上司に申請しにくい」が 61.8%、「利用している人が少ないので申請しにくい」が50.5%と高い割合になっている。
「当事者のみならず、職場の全ての人に生理や生理休暇に対する理解が必要」とある。

相手に伝わりにくい痛みを話す面倒より、ガマンした方がマシ。
特に相手が男性なら、よけいに話しづらい。
まわりは休んでいないのに自分だけという遠慮。
「人に言ってはいけない」「触れてはいけないタブー」という空気感。
また、「人員が少なく、休みにくい」「休んだら迷惑をかけてしまう」といった職場の環境や、「休むと給料が減って生活が苦しくなる」といった声もある。

ガマンして無理をするより「休めば」と声を掛けたいくらいだが、男性が不注意に口にするとハラスメントになりかねない。

できたら触れたくないデリケートな問題!?

厚生労働省は令和2年度、妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを含む、職場のハラスメントに関する実態を調査している。

令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査

同調査では、過去5年間に就業中に妊娠/出産した女性労働者の中で、「妊娠・出産・育児休業等ハラスメントを受けた」と回答した者の割合は26.3%で、約4人に1人が経験している。

女性特有の問題に触れれば、かなりの確率でハラスメントになりそうだ。
いくら慎重に対応しようとも、ハラスメントは相手の受け取り方次第で判断されてしまう。

問題を回避するためには「触らぬ神に祟りなし」とするか、「休暇や休業を申請しにくい空気をまとった上司」になるか…。

いま一度、経済産業省の「新しい当たり前をつくり女性が働きやすい社会を」を振り返って抜粋する。

フェムテックは、月経や出産、不妊、更年期など女性特有の健康課題をサポートするツール。また、人に話すことをタブーとされた女性の健康やライフイベントに関わる悩みをひとりで我慢せずに“みんなで”共有し、助け合う「新しい当たり前」をつくるムーブメントにもなっている。

とすれば、フェムテックとは、話しづらい・触れづらいといった空気を入れ替えるための空気清浄機のようなものと考えればよいのだろうか。

職場に常設すれば、イヤな空気の中でガマンすることはなくなるだろう。

長野にあるフェムテックの架け橋

長野県長野市の中心市街地、TOiGO (トイーゴ)の1階にフェムテックの専門サロンFeminity arch」(フェミニティアーチ)がある。

オープンは2021年11月20日。
フェミニティアーチは、フェムテックの専用サロンのフランチャイズとして現在、長野県内で12店舗が登録している。普段から女性の心身の悩みを伺う機会が多い美容サロンや整体サロン、エステサロン、ネイルサロン、マツエクサロン、美容室、プライベートジムなどで、気軽に相談できるフェミニンケア相談窓口として、地域や業種を問わず既存の店舗に追加併設することができる。

生理・妊活・更年期などの悩みに対応した商品を扱いながら、女性特有の月経、不妊・妊活、ウェルネス(女性特有疾患)、セクシャルウェルネス、メンタルヘルス、妊娠、産後、更年期などの悩みを相談し、解決に結びつける「フェムテックの架け橋」として展開している。

代表の成澤由美子さん(写真)に話を聞いた。

「アーチは架け橋。先には、新しい場所、新しい人、新しいコトとの出会いが待っている。肩こりや頭痛、生理痛、更年期など、身体の仕組みを理解したら、悩みが減って気は楽になる。50歳代が自殺する理由に『健康問題』が多いのは気掛かり。美容やケアなどに関わる専門家は、身体に触れることで不調がわかる。変化に気づけて、重症化を予防することができる。会って、触れて、気軽に話して、相談できるところでありたい」。

学校にあった保健室は、なにかあったら行ける場所だった。
なんでも聞いてくれたし、なにも聞かずに寝かせてくれた。なんでも相談できる場所だった。

そんな保健室をイメージして、女性に寄り添って、女性特有の悩みを気軽に相談できる「大人の保健室」のような場所。

「家族や友人に相談しづらいことや、どう解決したらよいか悩んでいることなどを、商品や施術を活用して手助けしたい」と、成澤さんは言う。

製品やサービスには、生理痛を改善する器具や月経周期を予測するアプリ。自宅で簡単に精子の濃度と運動率を測定してセルフチェックができるキットなどもある。上の写真右下の椅子は、骨盤底筋を鍛える器具。

自分のペースで好きに過ごせるスペースも併設

女性に寄り添う場所、空間を提供するのが「Feminity arch WORK LOUNGE」。
フェムテックを活用しながら自分の心と身体に向き合い、受け入れながら自分らしくいられる場所。自分のペースで好きなように過ごせる、家でも職場でもない第3の居場所。

体調がつらい時や集中したい時、気分転換したい時、悩みを話して理解を得たい時などにも利用することができる。

女性の「使いやすさ」を考えたコワーキングスペース(好きに過ごせるオープンなスペースを多様な個人と共有する場所)で、個人の仕事や作業を進めたり、打ち合わせに利用したり、その場で出会う人との交流や共同作業なども生まれる。

ワークスペースと作業用のテーブルやソファー、専門家が女性の身体を考えて監修したこだわりのカフェ、フェムテックケア、個室スペース、マッサージ器や岩盤浴などに加えて、相談窓口とさらに各分野の専門家へつなげる体制も整えて、女性の心身をケアできる設備を備えている。

利用者は、「子どもが小さくて在宅勤務だったが、そろそろ外へ出たい」「起業したい」「おしゃれしたい」など、なにかをしたいという思いを持った方や、午前と午後で働き方や過ごし方が違って別々のことをしているようなパラレル(複数の仕事を並行させて同時に進めること)関係者が多いそうだ。

机に向かったり、本を読んだり、寝ていたり、気になる人に声をかけたり、顔見知りと話をしたり、好きな場所で好きなように過ごし、気になる人と自分の距離感で話すことができる。

いろいろな人と交流していると、ゆるいつながりができ、「したいこと」が出てくることもある。
気の合う人が「ゆかたを着る会」や「大人向け絵本の読み聞かせ」などのイベントを自主的に開いたそうだ。


フェミニティアーチは女性の使いやすさを考えながら「会員制」で特別感を出し、心と体の悩みやキャリアプラン、情報交換会など女性向けセミナーを定期的に開催している。また、会員は限定サイトで過去のセミナー動画や資料を閲覧することができる。

見学と説明会(個人も複数人も可)、資料請求などもサイトから問い合わせることができる。

女性を応援する“暮らすroom’s”プロジェクト

成澤さんは健康支援の「エルズグランドケアアカデミー」として、女性の活躍促進に向けて起業支援などに取り組む「“暮らすroom’s”プロジェクト」に参加している。

プロジェクトの目的は、頼れる人を増やして「自立した女性が増える社会をめざす」こと。暮らしと働き方に応じた学びの場を提供したり、仲間づくり、コミュニティづくり、起業相談と支援などに取り組んでいる。

参加は長野県内で女性を支援する次の4団体(2023年10月15日現在)。

  • 子育て中の母親を結ぶ「ゆめサポママ@ながの」(長野市)
  • まちづくりや環境活動の「パブハブ」(伊那市)
  • 女性活躍支援の「一般社団法人South-Heart」(サウスハート、飯田市)
  • 健康支援の「エルズグランドケアアカデミー」(長野市)

各団体が連携協力して、女性のライフステージに応じた支援で、自立し主体的に生きる女性が増える社会の構築をめざしている。

自分らしく生きられ、誰にでもやさしい社会

女性特有の人へ伝えにくい、話しづらい、触れてはいけないという問題をオープンにして、理解を広げる。

その効果は、年2兆円の経済効果とともに、出生数の増加と、正規職員・女性管理職比率の増加にも現れる。自治体や企業のなかにも、フェムテックを積極的に活用しようという動きが出ている。

知ったら「これ、いいな」という商品やサービスは、どんどん登場しているが、それらが「必要とする人」や「使ってみてほしい人」たちへ届くことが何よりだ。

性別に関係なく、男女それぞれの違いを認め合って多様な個人が自分らしく、みんなが生きやすくなる社会。
「フェムテック」という言葉とともに、心身の悩みや痛みを理解しようとする思いやりの広がりが、誰にでもやさしい社会へとつながる懸け橋になる。

<取材・編集>ソーシャルライター 吉田 百助

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