■商店街の現状
かつては町の中心として繁栄していた商店街。それが今は空き店舗が増え衰退の道を進んでいるかのように見える。
私たちの生活スタイルの変化に伴い、特に駅前の商店街など利用者は郊外へ流れてしまうのは時代の流れとして仕方がない部分である。さらにはコロナ禍でリアルでの販売が厳しさを増した昨今。果たしてこのまま衰退の一途を辿ってしまうのだろうか。長野県内の現状踏まえ、商店街復活の鍵を探ってみたい。
■鍵はズバリ!本屋
いきなり本題から入ることになるが、商店街の復活には「本屋」の存在は欠かせない。
いやいや、本自体の売上も落ちているじゃないか!
本屋だってつぶれているじゃないか!
そんな声が聞こえてきそうだ。
その通り。後述するがまさに本の売上は右肩下がりである。しかしかつて本屋は、人の集まる商店街や駅前にあることが普通で、まさに文化の発信源であり情報の集積所であり仲間の集う場所でもあった。本屋は「本」を売るだけではなく、「知」を売る場所であったのではないか。そのもともとの本屋の存在理由を復権させることこそが鍵となるのではないかと考える。
みなさんは書店や本屋で、じっくりとサインと呼ばれる分類表示を見たことがあるだろうか。本のジャンルは出版社や書店独自棚分類などで細分化されているが、雑誌の特集まで含めれば無限にあると感じさせられる。サインには「文芸」や「ビジネス」「実用」といった大分類。「実用」でも「園芸」「料理」「スポーツ」などに分けられ、さらに「料理」も「専門料理」「家庭料理」「お菓子」。さらにはそのお菓子も分類されていく。よく見れば他の人には相手にされないと思われるニッチな趣味まで、あらゆるジャンルの本が多岐にわたり出版や特集が組まれ、商店街にあるほかの商売や利用する人々とのマッチングを図ることも容易だ。
また商店街にあるからこそ立地や利便性を生かし、そこを行き交う多種多様な人々の持つ人間性や意識、趣味、仕事、地域をつなげる協働の場としての担っていくことができると考えられる。
それでは「つなげる場所」とはどんなところなのか?商店街である以上、商売が成り立つことが一つの条件であると考えると、単なるコミュニティスペースでは難しい。
■実態調査の結果
ここで商店街の現状について把握しておいきたい。
平成29年度の商店街実態調査結果(前回調査平成26年度との比較)では、長野県内にある商店街数は、昭和56年に454あった商店街数をピークに減少傾向にあり、前回調査241商店街に比べ 約1割減少し24商店街減の217商店街となった。空き店舗を除く店舗数は8,829店舗で、前回9,641店舗から812店舗の減少となった。また空き店舗率は9.5%(+0.7ポイント)と増加傾向にある。
以前と比較した景況感については、「繁栄」が3.2%(+0.7ポイント)、「変わらない」が 39.6%(+5.2ポイント)、「衰退」が 57.1%(▲0.6ポイント)という結果となり、圧倒的に「衰退している」と感じているが、その感覚は前回調査から改善していると捉えることができる。
調査結果からは、実際の商店街における店舗が減り空き店舗は増えているが、景況感については改善を見せているという逆転の現象が起こっている。これは各自治体が実施してきている「空き家・空き店舗見学会」や「空き店舗活用事業補助金」といった制度の活用が一部では活発な動きがあり、移住推進などと合わせた他の機関との連携がうまくいっていると考えることもできる。
では、実際に商店街においての衰退原因について考えてみる。
「衰退している」と回答した要因には、「商店主の高齢化(後継者の不足)」が54.8%で一番にあげられる。次に「域外大型店への客の流出」で54.0%。「商圏内の人口、世帯数の減少」が48.4%と続く。これらの結果から一番の原因は顧客云々よりも事業を引き継ぐ人材がいないことが深刻であると考えられる。よって前段で述べたような、補助金の活用での新規出店やIターン者を支援する動きで若返りを図っていることは有効な手段なのである。
しかし商店街のコミュニティを活気づけるには、それだけでは不十分である。新参者や移住者はいまだに「よそ者」というレッテルで見られることもあり、溶け込むのは難しくもある。
そこで商店同士、または地元民と移住者をつなげるのに欠かせない存在や場所としても本屋が必要で重要な場所なのである。
■本屋の現状
本の売上推移と本屋の現状にも触れておく。
本好きとしては悲しいことではあるが、本屋もまた衰退産業の一つである。
90年代後半は書店の大型化や郊外化が進む中、書籍の販売金額は1996年、月刊雑誌は1997年をピークに毎年下がり続けてく。現在の売上を見ても近年伸びているインターネット経由での販売数や電子書籍をカウントしても、ピーク時の販売数には到底届かない。この原因として紙媒体の本以外に娯楽や情報源の選択肢が増えたことが一つと考えられている。
また書店の数も年々下降傾向にあり20年前22000軒あった書店は、10年後の2010年には15000軒、2017年には12000軒と減り続けている。これはただ単に機能として本を売る場所が、CVSコンビニエンスストアでの取り扱いや、車社会の発展とともに郊外へ移り、さらには出版点数の肥大により取扱量が多い店舗の大型化傾向が続いていったこと。また通信技術の発展とともに必要とする情報も商品も店舗で買い求める必要もなく、インターネットの発達と物流が発展していく中で、店頭では取り寄せに何週間もかかる注文や仕入れ弱者ともいえる販売方法では時代から取り残されていく小さな街の本屋は淘汰されつつあるのだ。
■商店街の展望を担う本屋の未来
幸いとも言うべきか、近年は本屋を経営したいと思う若者は多いのだと言う。本屋は取次店との契約などにお金がかかり新規参入するにはハードルが高い。しかしそのために本屋の経営をあきらめてほしくはない。新規での開店は難しいが、やりやすいのは今ある資源を生かすこと事業承継をおこなうことだ。もちろんこれも簡単にできることではない。何よりも元のオーナーとの信頼関係が肝となる。商店街や地域に必要なことやできることを一緒になって話し合い、これからの時代に必要な持続可能な本屋でありながら、本屋だけではない新しい形へ業態を進化させる必要がある。
今までも日本全国でブックカフェも生まれて、一つの生き残りの形となっている。今ではブックマンションという形で棚貸により棚のオーナーが独自に特集し編集した内容で本を販売する店舗もある。
本屋というものはつくづく個性が出る場所だと感じる。その本屋独特の陳列や情報発信により人となりがわかり、内容に共感することでも満足感や新たな世界も垣間見ることができる。その可能性は本のジャンルと同じように無限だ。その商店街が観光地であれば観光の拠点となり、自然豊かな場所に隣接していれば地域の情報発信の場やテレワークする場所ともなる
「温泉×本」「焚き火×本」など、本にとっては対敵なもので組み合わせるのも面白い。一見意外ともとれる趣味や活動、業種や業態やと組み合わせれば、それは商店街の中の個店ではなく、それぞれがステークホルダーとなり協働できる本屋も作ることが可能だ。それこそがシャッターが並ぶ商店街復活の鍵となり、持続可能なまちづくりができるのではないかと私は考えている。