誰もが輝ける「軽井沢ふくし広場」。「アート×福祉」のイベントで感じたことは?

アート×福祉。

二つの世界が絶妙に交わりあう瞬間を体感できるイベント「軽井沢ふくし広場」が2023年10月1日(日曜日)、長野県軽井沢町にある保健福祉複合施設「木もれ陽の里」で開催されました。

主催は軽井沢町社会福祉協議会
会場となった「木もれ陽の里」に入居する「地域活動支援センター」は、自立支援のため軽井沢町内の事業所などから受託した作業を障がい者に指導する施設です。

会場内は親子連れなど400名以上の来場者ににぎわい、アートにふれるワークショップやイベントを楽しんでいました。

アートでつながる「軽井沢ふくし広場」

アートでつながる木

「軽井沢ふくし広場」はアートに取り組む障がい者の作品、あるいは障がい者が行う芸術活動に触れてもらうためのイベント。

アートや福祉と関わりがなくても、誰でも楽しめるイベントということもあって、幼児から高齢者まで多くの来場者でにぎわっていました。

会場に「アートでつながる木」が置かれ、来場者が丸いシールを自由に貼り付け、一つの作品が作り上げられていました。

楽しみ方もさまざまなワークショップ

会場内では、子どもたちが夢中になれる数々のワークショップやイベントが開催されていました。

ワークショップに参加することで楽しみが増えていく仕掛けが、来場者のやる気を誘います

この記事では各団体が催したワークショップの様子をお伝えします。
イベントに参加している気持ちで最後まで楽しんでもらえればと思います。

アート×障害者を体現するワークショップ

まずは「軽井沢ふくし広場」の醍醐味である「アート×福祉」を体現するワークショップを紹介します。 

心がほっこりする似顔絵(浅間学園)

男の子二人の似顔絵

軽井沢町で障がい者のショートステイを支援する施設「社会福祉法人 育護会 浅間学園」が開催するワークショップは似顔絵作成。

描くのは障がいを持ったクリエイター、描いてもらうのは来場者(主に子ども)でした。クリエイターの周りには人だかりができており、その人気ぶりが伺えました。

他のアーティストの作品も展示されており、芸術活動に対する熱意や没頭する様子を感じさせる不思議な作品もありました。

誰でもアーティストになれる版画体験(軽井沢治育園)

軽井沢町で障がい者の短期入所や、共同生活支援を行う「社会福祉法人 愛泉会 軽井沢治育園」が開催していたワークショップは版画体験。

予め用意されている版画板にインクを塗り、白い紙に転写する作業を体験できるワークショップ。
小学生が挑戦していました。

インクを塗った版画板の上に紙を置き、版画板に紙を密着させていくと、次第に浮き上がってくる絵。慎重にはがして乾燥させれば完成です。

版画ワークショップの横には、浅間学園を利用する障がい者が作ったカバンも置かれていました。

江戸時代から続くアップサイクル・裂き織り体験(地域活動支援センター)

ワークショップで使われていた織り機

布切れを繋ぎ合わせたものを横糸として布地を作る「裂き織り」の体験。
会場に用意されていたのは簡易的な織り機を操作して、少しずつ織り進めました。

縦糸の間に横糸(古い布)を通す作業
織り機を動かす子ども

横には障がい者が作った作品、落ち着いた印象のカバンやクッションが並べられていました。

興味をそそられる楽しいイベント

会場には「アート×福祉」の枠に限らず、来場者を楽しませるイベントがたくさんありました。

目がはなせない不思議なマジックショー(港マジック同好会)

ひもを使ったマジック

目の前で繰り広げられるマジック。陽気なおじさんの動きから目がはなせません。

紐しか持っていないはずなのに、紐に絡まった赤い布が出現したり……
絡まっていた紐に息を吹きかけると、急に解けたり……

種が分からない不思議なマジックに、来場者は歓声と拍手をおくって楽しんでいました。

操作に夢中になる対戦型ロボットゲーム(メカトロニクス教室軽井沢)

手前のアームで荷物をつかんで運ぶロボット

メカトロニクス教室軽井沢」は、荷物運搬ロボットをリモートコントロールする対戦型ゲーム。

ルールは簡単。赤と青のコーナーに分かれて、一人一台のロボットを操作します。
積み上がったブロックを自分の陣地(赤、あるいは青の箱)により多く入れた方が勝ち、というシンプルなゲームです。

操作は意外に難しく、ブロックをつかもうとしてアームが接触すると、ブロックが簡単に崩れてしまいます。ルールは簡単でも、なかなか思うように操作できない、もどかしいゲームでした。

イベント参加団体の想い

最後に、2団体の代表者からイベント参加の想いをききました。

自由な発想で「素材」を作るワークショップ(konst)

konstの共同代表である須長さん(左)と渡部さん(右)

「よりみちデザイン」というタイトルで「何をしているのだろう」と思った面白いワークショップを行っていた「konst」。共同代表の渡部さんに話をききました。


――「よりみちデザイン」とは、どのようなワークショップですか?

丸や三角、それに四角い形をした白い紙。それと、普段使い慣れていない日常にあるガラクタを用意しました。それらを参加者の感性で好きなように使ってもらい、白い紙に好きな色や好きな模様を付けてもらうワークショップです。

実はこれ、私たちが普段障がいのあるクリエイターたちの力を借りてやっていることなんです。

デザイナー(クリエイター)って経験を重ねて何でもこなせるようになればなるほど、「こなせない」ことができなくなるんです。一定の型にはまっちゃって、型から外れることができなくなるんですよね。

障がい者ははじめから型なんて気にせず、寄り道しながら自由な発想でデザインできるんです。私たちはそういったデザインを素材として集めて、最終的にプロダクトとして仕上げています。

――町立軽井沢病院のお薬手帳にも障がいのあるクリエイターのデザインが使われているそうですね。

そうなんです。実際に目に見える形で実績を残しています。

すべてのデザインが受け入れられるよう、企画作りに責任を持ってやっていますね。描いてもらったデザインに心から「いいね!」と思うオールOKの気持ちでやっているんです。

貴重な一つひとつの素材をどのように活かせば形になるかを考えます。クリエイターにデザインを描いてもらう以上は、きちんと形にしてビジネスとして成立させるテクニックも必要なんです。

――クリエイターも生きていくためにお金は必要ですからね。

親御さんからすると月に数千円でも給料が上がると、本当にうれしいそうです。
私たちは先に各々のクリエイターの「得意なこと」を探します。その力を存分に発揮してもらって、結果としてクリエイターに還元できればいいなと思っています。


普段は障がいのあるクリエイターが作った作品をスキャナーで取り込んで、デザインの素材として活用しているそうです。

この日も子どもならではの自由な発想による作品が、数多く誕生していました。

子どもたちと選手に非日常を届けるプロレスマッチ(信州プロレスリング)

信州プロレスリングの代表であるグレート☆無茶さん

イベント終盤、プロレスマッチで来場者の注目を一気に集めた「信州プロレスリング」。
代表者のグレート☆無茶さんに話を聞きました。


――このイベントに参加しようと思ったきっかけは何ですか?

主催者である軽井沢町社会福祉協議会の担当者に声をかけていただきました。古くからの付き合いなので、この場に参加させてもらってうれしく感じています。

――今日はさまざまな子どもが参加しています。子どもにどのような未来を実現してほしいですか?

みんなが思う自由を、みんなが感じたことを楽しんでもらえればそれでいいと思います。すべての子どもが笑顔になる。そのような世の中になってほしいと思っていますね。

――この記事の読者にメッセージをお願いいたします。

誰もがワクワクして過ごせる社会になればいいなと思っています。夜寝る前から明日が楽しみで、朝起きても今日が楽しみ。誰もがそんなふうに思える社会になればいいですね。

選手はみんなやりたくてプロレスをやっています。だから、新潟県や埼玉県、長野県内から集まってくるんです。みんな普段は仕事(本職)をしていますからね。でも、こういったイベントがあるとそれは非日常だからワクワクするんですよ。

今日のイベントは子どもたちにとっても非日常じゃないですか。だから思う存分楽しんでもらえたら私もうれしいです!


グレート☆無茶さんの言葉通り、子どもはもちろん選手の皆さんも「非日常」を楽しんでいる様子でした。

紹介しきれなかった写真と動画をギャラリーで

                会場の様子をダイジェストで

誰もが輝ける未来のために・・・取材を通して

日本社会の中で多くの人は、ある程度の年齢に達すると一定のルールの中で生きることになります。

学校や会社に行く時間を決められ、勉強や仕事のスケジュールを決められ、やって良いこととやってはいけないことを決められ……。

ずっと誰かが決めた型にはまって生きていると、型にはまらないことができなくなっているかもしれません。

しかし、アートは本来自由なもの。アートに触れている時間だけでも本来誰もが持っている自由を感じられたのではないかと思います。

すべての来場者が自由に時間を過ごした「軽井沢ふくし広場」での体験が、誰もが輝ける未来へ通じていると感じました。

<取材・執筆> ソーシャルライター 廣石 健悟