長野県からマリ共和国へ送る支援の米

長野県内各地で収穫したお米と寄せられたカンパ米、あわせて6トンのお米をアフリカ・マリ共和国の「子どもたちのために」思いを込めて、送り出した。全国から集まるお米とともに船積みされ「2万kmの命の道」(記事後半で説明)を通って現地へ運ばれる。

アジア・アフリカ支援米、国際協力田支援米合同発送式」が、2022年1月12日、長野市のJA長野県ビルで行われた。

「アジア・アフリカ支援米」は、「食とみどり、水を守る長野県民会議」が1995年にはじめ、今回で27年目。県内6か所で作付けし収穫したお米と、一般消費者も含め「コメ一握り運動」として集めたカンパ米を加えたもの。同会議は農民と労働者が手を取り合って日本農業を元気にしようと、この取り組みをはじめた。

国際協力田支援米」は「JA長野県グループ」を中心に1998年から取り組みを続けている。県内7つのJA(農業協同組合)と連合長野、生活協同組合、各地の幼稚園・保育園・小学校、ボランティアグループなど合わせて27団体・約900人が参加して8か所で作付けし収穫したお米と、カンパ米を集めたもの。

食糧支援と荒廃田の利活用を同時解決へ

「アジア・アフリカ支援米」と「国際協力田支援米」は、取り組み主体に違いがあるものの、年に一度、合同発送式で顔をあわせて、その思いと成果を共有しあっている。取り組みのはじまりは、27年前にさかのぼる。

世界で自由貿易が拡大するなか、日本はすでに食料の6割以上を輸入に頼っていた。国内で100%自給できる米がありながら、その消費量は年々減少し、生産調整が求められていた時代。米が作られないまま荒廃していく田んぼを活用することはできないのかー。
世界では飢餓に苦しむ多くの人々がいる。国連世界食糧農業機関(FAO)の推計では、慢性的な食料不足に苦しむ人々が世界で約6億9,000万人(2019年時点)もいるという。必要なのは、不平等と格差を広げる自由貿易の拡大ではなく、各国が持つ自国の資源を最大限に活用して世界の人々と共生・共存できる「新たな貿易ルール」ではないかー。

生産調整のために空いている田んぼで米をつくり、食料を求める人々のもとへ届ければ、人道的な支援になる。日本で十二分につくることができる米で、国際貢献することができる。地域の子どもたちと一緒に米をつくり、取り組みの意義を伝えれば、理解と支援の輪が広がり、食料と農業の見方も変わっていくだろう。田を荒らすことなく地域の環境を維持することもできるー。

さまざま思いが結実し27年もの間、取り組みが続けられている。

発送式ではこの1年の取り組みを報告し、各地から集めたお米を並べて、参加者が袋にメッセージを書いた。現地で使われているバマラ語の例文を参考にしたメッセージも見られた。

NI MALO YE’ AW TAYE’ (このお米はみなさまのためにつくりました)
ALLAH KAKE’ AW NAFANLA YE (このお米が役立ちますように)
ALLAH KA AWN TO NYONGON YE (世界の人々がみんななかよくなるように)

(写真は、各地の保育園・幼稚園、小学校などからお米とともに寄せられたメッセージの一部)

食料支援を求めるマリ共和国、支援米で学ぶ子どもたち

長野県を出発したお米は、NGO団体マザーランド・アカデミー・インターナショナル(命の等しさ尊さを行動で子どもたちに伝える母の会)(以下、マザーランド)のもとで、全国各地から同様に寄せられたお米や物資とともに船積みされる。マザーランドが40年以上前に手作りで築き上げた「2万kmの命の道」を通って、アフリカのマリ共和国へと運ばれる。

西アフリカ内陸に位置するマリ共和国は、国土の4分の3が砂漠で天然資源もない。干ばつと難民の流入による食料不足が深刻で、軍事クーデターやテロの発生もあって食料緊急支援の要請が絶えない。国連が定めた「最貧国」の一つで、所得が年収830ドル以下(日本円で換算すると月収8,000円以下)と低く、教育・健康・生活水準の各面が示す貧困指数が極めて高い。

マザーランドによると、日本から届くお米は、子どもたちに“自立”と“希望”と“いのち”を与えているという。各地にお米の配布場所を設置し、まわりに水利施設と田畑、植林場を設けて、農作業を体験し、文字を学習してからお米を配布するなど、子どもたちが自分の力で食料を生産し生きていけるように企画されている。さらに、その収穫物をより苦しい生活下の人々に分けることを学び、平等に分けることで食料による紛争をなくす大人になるよう、戦争をしない・させない大人になるための行動を学ぶ。

マリ共和国の子どもたちが農作業を行う様子(写真はマザーランド・アカデミー・インターナショナル提供)

マザーランドが築き上げた「2万kmの命の道」は、紛争地帯をトラックで通ることもあるというが、襲われたことは一度もないそうだ。40年以上の取り組みで、毎年時期になると通るトラックが「なにを運んでいるか」が知れ渡っているという。

「2万kmの命の道」を示した図(発送式資料より)

「皆さまからの支援米は、その一粒一粒が強い意志を持っているかのように、広大な砂漠のまだ一部でありましても、砂の大地を緑に変え、人々を生き返らせています。私たちは、皆さまのアジア・アフリカ支援米、国際協力田支援米から常に力をいただいています。これからもできる限り力を尽くし、活動させていただきます。誠にありがとうございました。マザーランド・アカデミー・インターナショナル 代表 村上 章子
(発送式に寄せられたメッセージの一部を抜粋)


近年、干ばつや熱波、ハリケーン、洪水など自然災害の多発と、新型コロナウイルスの蔓延で世界の食料状況は不安定さを増している。「2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び乳児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養ある食料を十分に得られるようにする」と定めたSDGsのターゲット。それを達成するためにも、誰もが参加できる「アジア・アフリカ支援米、国際協力田支援米」の取り組みが、さらに広がることを願った。

<取材・写真・文責>ソーシャルライター:吉田 百助