「移動販売の機動性を社会課題の解決に生かし、人々の暮らしや地域に貢献する」。これは、ながの移動販売つなぎ局が掲げる目標です。活動を始めて5年、理念に共感し参加する仲間が増え、移動販売の可能性も広がってきました。
キッチンカーと営業スペースを提供する人やイベント主催者をつなぐ活動を続ける中で、ニーズは街なかだけにとどまらないことが分かってきました。住宅地の空きスペース、事業所や学校の昼休みなど、暮らしのすぐそばでキッチンカーが活躍できる場が増えています。また、中山間地域では、日常にちょっとした楽しみを生み出したり、地域の祭りへの出店でにぎわいをもたらしたりと、地域との新たな関係が育まれています。

こうした日常での役割に加え、災害時にも機動力を発揮できる点は移動販売の大きな強みです。災害関連死の一因には避難生活の環境があり、特に命を支える「食」は重要です。道が確保されれば温かい食事を届けられる移動販売の力を平時からどう備えるか、つなぎ局は長野県や長野県災害時支援ネットワーク(N-NET)と共に検討してきました。
その矢先に発生した能登半島地震。2024年2月、長野県の要請でつなぎ局の7台のキッチンカーが被災地に入り、いくつかの避難所で個別に食支援を行いました。たった数日の準備期間、悪路を何時間もかけて向かう大変さはありましたが、事故も故障もなく活動できたのは、移動サービスのプロとしての技術と経験のたまものです。
支援活動で特に印象に残っているのは、被災者からの「カレーの炊き出しが多かったので、定食は新鮮」という一言でした。日替わりで支援者が入れ替わる状況では、同じメニューが続いてしまうことがあるのです。避難生活が長期化する中で、栄養や食の多様性を保つ視点の重要さに気づかされた瞬間でした。
こうした経験を未来の備えに生かすため、つなぎ局ではキッチンカー事業者や関係機関とともに「食支援ラボ」を定期的に開催し、N-NET主催の実働訓練にも参加しています。日常でも災害時でも、「暮らしに寄り添う」姿勢は変わりません。生活スタイルが大きく変化する今、移動販売がもっと身近で頼れる存在になれたらと願っています。
執筆:一般社団法人ながの移動販売つなぎ局 代表理事 村上裕紀子(むらかみゆきこ)
初出:長野市民新聞 NPOリレーコラム「空SORA」2025年12月掲載



