

長野県長野市松代にある「松代大本営平和祈念館」は、戦争の記憶を未来へと語り継ぐために設立されたNPO法人「松代大本営平和記念館」が運営する施設です。
太平洋戦争から80年になる節目の2025年10月11日、多くの方の思いが実り、開館しました。
開館準備に追われる中、長年、活動に携わってきたNPO法人「松代大本営平和祈念館」の3名の方に、平和祈念館設立までの経緯や活動について話を聞きました。
40年に及ぶ「祈念館」建設悲願が達成するまでの道のり
クラウドファンディングで広がった共感の輪
活動の始まりは1986年。祈念館設立の話は早い段階から出ていましたが、当初は松代大本営保存活動や調査、また大本営の案内を行うガイド活動が中心だったため、なかなか手が回らなかったそうです。「祈念館建設委員会」という組織を作ったものの、建設予定地の取得の段階で想像もできない事態が次々と起こり、完成にたどりつくまでには四半世紀を超える長い年月を要しました。
NPO法人化されたのは2003年。実は、寄付された土地があったので、まさか、こんなに時間がかかると思っていなかったのだとか。ところが、その場所が廃棄物置き場だったため、会員が整備を進めたものの、最終的には法的な制限があり、その場所での建築を断念せざるを得なかったのでした。そのため、ゼロから建設予定地の場所を探し始めることに。ようやく見つかったと思っても、道が通っていなかったり、長期で借りることが難しかったりと条件が整わず、計画は何度も立ち止まってしまいました。それでも「平和を伝える場をつくりたい」という会員たちの思いは揺らぐことなく、現在の地にたどり着いたのです。
2025年3月には、建設資資金不足を解決するためにクラウドファンディングにも挑戦しました。「ぜったいに失敗するわけにはいかない」と、挑戦目標の金額設定には悩みに悩み、結果としては目的をわかりやすく伝えることに重きをおいた点が功を奏し、目標金額の500万円を超える632万円の資金が寄せられました。
資金面の援助と同じくらい「少額でも応援したい」「完成したらぜひ訪れたい」といった全国から応援のメッセージが、メンバーにとって大きな励みとなったそうです。「この活動は必要とされている」という実感がわき、祈念館完成実現へとより突き動かしていくことになりました。

若い世代へ戦争の痛みと平和を手渡す
語り継ぐ力を育てる——ガイドの育成と地域に開かれた学びの場へ
現在、年間15,000人もの若者が松代大本営を訪れています。そのほとんどが修学旅行の中高生です。
事前学習をし、実際に大本営の中に入り感じたことで、多くの若い世代に、平和について深く考える機会となっている事実があります。だからこそ、せっかく、修学旅行生たちが松代大本営の中でガイドの話を聞いた体験のまま帰るのではなく、その事実をより深く知る資料や歴史的な背景とともに学ぶことできる場がどうしても必要だと考えてきました。
だからこそ、完成した「松代大本営平和祈念館」は、広島の原爆資料館のように、訪れた人々に、過去の記憶を直視し、平和への思いの種をしっかりと根付かせることができる拠点として育てていくことを考えているのです。
さらに、NPOとしての今後の活動は「松代大本営平和祈念館」の運営を通し、若い世代への継承はもちろん、語り部となるガイドの育成にも力を入れていきます。ただ知識を伝えるのではなく、語るガイド自身が歴史の痛みや祈りを自分の言葉で次世代へと手渡しができるような定期的な勉強会や展示資料の見直しなど、充実を目指しています。また、理事長の花岡邦明さんは、松代という地域に根ざし地元の人々にも開かれた場所として、地域と連携したイベントの開催など開放的な学びの場としての役割も担っていきたい、と語っていました。



継続の力——志をつなぐ優しいリーダーたち
最後に、NPO法人化する前から40年弱、長きわたって活動が続いてきた秘訣を、初期メンバーの北原高子さんに質問してみました。
「これまで病気や高齢といった理由で退会された方以外、ほぼ皆さんが活動を継続している団体なんです。現在の理事長で4人目なのですが、異なる時代の課題にそれぞれが取り組み、その時その時で舵を取りながらも、どのリーダーとも抑圧的でもなく力ずくでもなく、会員の思いを尊重する姿勢があったからなんでしょうね。みんなの気持ちや意欲を大切にしながら、対話を重ね、活動の方向性を見出していく。その優しいリーダーシップが、メンバーの信頼を育み、活動の土台を築いてきたのだと思っています」
それはまさに、平和を希求する団体としての在り方であり、NPO活動そのものが「平和の実践の場」として息づいていることを物語っています。


事務局長 松樹道真さん
取材ソーシャルライターの声
私事ですが、4年前に亡くなった母が、実は長年、このNPO法人の会員でした。「松代平和祈念館が完成したら、この絵を寄贈してほしい」と、生前母が購入し長く実家に飾られていた版画家、上野誠氏の作品を今回、祈念館完成のニュースを知り、父とともに寄贈しました。
亡くなった母は、小学校低学年時代に太平洋戦争を経験しているからこそ、だれよりも平和の尊さを私たち子どもや、孫、未来の世代へ伝え、この平和な社会をつなげていきたいという強い強い気持ちを持っていました。母の願いでもあった「松代大本営平和祈念館」が完成したこと、そして、母との約束通り「平和の鳩」という版画作品を「松代大本営平和祈念館」に届けることができたこともあり、個人的にもかなり感慨深い取材となりました。
特に、数多くの困難が重なっても、長年活動を継続することができたのは真のリーダーシップを発揮されてきたという歴代リーダーの話でした。今こそ、求められているのは、自分の考えを声高に一方的に主張する一見、強そうなリーダーではなく、一人ひとりの思いに耳を傾け、共に歩むことのできる人こそが、真のリーダーなのではないか?そんなことを考えてしまいました。
世界が、時代が大きく変わりつつある今、オープンしたこの施設が、世代や場所、人種をこえて多くの人の「平和を祈念する」思いをつなげていく存在となるよう私も見守っていきたいと思います。
取材・撮影・執筆/ナガクルソーシャルライター 大日方 雅美


松代平和祈念館
開館時間:午前10時〜午後4時
休館日:月曜日・木曜日、および冬季(12月〜2月)
入館料: 一般:500円(15人以上の団体は400円) 小中高生:300円(団体は200円)
所在地:〒381-1231 長野市松代町松代1461番地
電話番号:026-214-1557
公式サイト:松代大本営平和祈念館トップページ








