住民の力で活性化を!「信濃町100人バーベキュー」で、人のつながりを生む

2025年10月13日(祝・月)、信濃町にあるフィッシングランドはなおかで「信濃町で交流100人バーベキュー」が開催されました。町内から約140人、県外を含む町外から約100人が参加し、総勢約240人がバーベキューを楽しみながら交流を深めました。

信濃町100人バーベキューとはどのようなイベントなのか

信濃町100人バーベキューは「信濃町ふれあい体験交流会」が主催するイベントで、開催は今回で2回目。1回目は2024年に同町内のやすらぎの森オートキャンプ場で開催され、その時は約115人が集まりました。

一般的なイベントではステージで何かを発表する人とそれを観る人、あるいはブースで何かを販売する人とそれを買う人のように立場が分かれてしまうものが多いです。しかし、このイベントは参加者全員が同じ立場で交流を深められるようにと考えられており、10人(2024年)〜15人(2025年)のグループに分かれてバーベキューを行いました。

森の中を散策する富が原ぐるっとウォーキング

イベントの舞台となった信濃町の富が原は自然豊かな森がある地区です。そこで、バーベキュー前の時間を利用して、富が原ぐるっとウォーキングが開催され約20名が参加しました。

富が原は1950(昭和25)年から開拓が始まった町内では新しい地区です。今回の舞台となったフィッシングランドはなおかや、町内の酪農家が乳牛の飼育を委託している町営富士里牧場、それに故C.W.ニコル氏が生涯をかけて手入れを続けてきた「アファンの森」があります。

富が原ぐるっとウォーキングは豊かな地域の自然を満喫してもらうために開催されました。出発後、しばらくはアスファルト舗装された一般道を歩きますが、すぐに富が原遊歩道に入ります。ここからはまさに「森の中の道」といった印象で、両脇にそびえる背の高い木の間を進んでいきます。途中、地面に刻まれていたのは熊の足跡。ガイドのスタッフによると、比較的新しい足跡とのことでした。

比較的新しい熊の足跡。参加者は熊鈴をつけてウォーキング

遊歩道を進んでいくと、道は登りに。それでも景色を見ながらゆっくり歩けば、良いリフレッシュとなるような道でした。途中、音を立てて流れる沢を渡ると見えてきたのは国有林が広がるエリア。今後、木を植える予定だと言い、針葉樹だけでなく広葉樹もバランス良く植えるとのことでした。その後、富士里牧場を通り、ホースロッジで飼育されている馬「茶々丸」を見た一同は、会場に戻りました。

澄み切った水が流れる沢

親子で参加し、長野市に単身赴任中の男性は「生き物が好きな小学校4年生の娘と参加した。娘はこのイベントに参加したくて埼玉県から一人で新幹線に乗ってやってきた。見晴らしが良く歩きやすいコースで良かった」と話していました。

また、東京都在住で町内の黒姫山に山荘を持っている夫婦は「私たちのような別荘族は地元の人との関わりが少ないから、交流を楽しみにして参加した。針葉樹だけでなく広葉樹も植えるという国有林の活動が自然に寄り添っているという印象を受けた」と話していました。

アファンの森 ホールロッジにいる茶々丸

老若男女・信濃町内外の多くの人が交流したバーベキュー

バーベキューは炭で火を起こすところから始まります。その後、バーベキュー台で肉や野菜、焼きそばなどを皆で焼きます。一連の作業は一人でできるものではなく、また、人それぞれできることと、できないことがあります。食材を焼く人、それをお皿に乗せる人などそれぞれができる役割を果たすことで、初対面どうしでも自然と会話が生まれ、食事の用意ができる頃には一体感が生まれるというイベントです。

また、参加時に「◯◯さんと同じグループが良い」など、グループ分けの希望を出せるようになっており、複数の家族や仲間と同じグループで楽しめるような工夫もされていました。

食事が少し落ち着いたところで行われたのがビンゴ大会です。しかし、ただのビンゴ大会ではなく、景品はすべて町内の事業者や個人から協賛(無償提供)されたものという、手作り大会なのです。
景品は野尻湖の遊覧船のチケットや町内に工場がある信洋食品の「ポンちゃんラーメン」、主催者が自ら栽培した米「どなぽん米」など、多くが信濃町ならではのものでした。

神奈川県から移住し、現在は信濃町で暮らす女性は「ママ友どうし子どもを連れて参加した。一緒に参加した仲間や町内の人との交流を楽しみしている」と話していました。

町内で生まれ育ち、大学時代以外は信濃町で暮らしているという男性は「信濃町は自然が豊かで良いところ。長野市が近く、海(上越市)も近いため便利」と信濃町の良さを語っていました。今回参加したのは「町外や移住者に、信濃町がどう映っているのか聞いてみたい。交流を楽しみしている」との理由だそうです。

東京都在住で町内に先祖代々の土地を持っている男性は、長年、海外を含むマーケティングの仕事をしていたそうです。その経験を踏まえて「信濃町の良さを知らない人も多い。多くの人に知ってもらうには、とうもろこしなど特産品のブランディングが必要だ。海外の人に信濃町がどう見えているのかも気になる」と話していました。

信濃町ふれあい体験交流会 飯田和馬さんの想い

飯田さんは2020年に東京都から信濃町に移住しました。移住当初、誰も知り合いがいない状態からわずか数年で地域に溶け込み、多くの町民の協力のもと、これほどのイベントを開催したことに驚きます。

イベント終了後、主催団体の代表である飯田和馬さんにイベントの感想や信濃町の印象を聞きました。

飯田さん談: 前回と今回のイベント開催を比較して

今回、まず心配していたのは天気でした。台風が近づいているということもあり、雨の予報が出ていたためです。しかし、実際には少し雨が降ったものの、イベント中はほぼくもりで無事に開催できて良かったです。

参加人数が前回の約115人から約240人に増えたことで人、モノ、コトを適切に運用することがやや複雑になりました。それでも、最後にみんなで撮った集合写真を見たときには「こんなに大勢の人が参加してくれた」と自分でも嬉しくなりました。

今回は富が原が舞台ということで、富が原地区の人たちと関わる機会が多くありました。私が住む古海(ふるみ)地区は町内でも北に位置しており、新潟県に近い地域です。一方、富が原は南に位置しており、飯綱町に近いため古海とは真反対にあります。

物理的に離れていることもあり、今まであまり交流するきっかけがありませんでした。しかし、今回は富が原の人にも実行委員に入ってもらったため、イベントの準備を通して交流を深められたのが印象的でした。

移住して分かった信濃町の魅力が100人バーベキューの開催へとつながる

移住前、信濃町に抱いていた印象は豊かな自然でした。また、私はスノーボードが好きなので、雪の印象も強かったです。移住してもやはり雪深い印象は変わらず、実際にスノボードが楽しめたのは良かったです。しかし、移住当初は除雪機を持っておらず、毎日4時間かけて家の前を除雪したのは、今となっては良い思い出です(笑)。

普段は野尻湖支館(公民館)の支館長としてワカサギ釣りや蕎麦打ち教室など、地元の人向けにイベントを開催しています。しかし、移住当初はこれほど地元に溶け込めると思っていませんでした。ましてや、今回ほどの規模のイベントを企画して実際に開催しているとは全く思ってなかったのです。これは信濃町に住んだからこそ、変わったことだと思います。

信濃町に実際に住んでみて感じたのは「住みやすさ」です。自然は豊かで人も良いので、とても住みやすいと感じています。しかし、移住当初は誰も知り合いがいなかったため、田舎暮らしをするのにそれはまずいと思いました。そこで私は、移住初日に役場に行き「消防団に入るにはどうしたらいいですか?」と聞きに行きました。これには役場の人も驚いた様子でした。

消防団活動を通して地元の人との交流が増えると、野尻湖支館の活動に誘われ、そのうち「支館長にならないか」と声をかけてもらいました。そうやって、知らない間にどんどん地元に溶け込んでいる自分がいました。

支館長としていろいろな活動をしていると、それを自分が楽しんでいることに気付いたのです。また、野尻湖支館のイベントに参加してくれた地元の人が喜んでいる姿を見ると、さらに嬉しくなりました。それが昨年の100人バーベキューの開催につながりました。

自分流の信濃町の盛り上げ方と、来年のイベント開催に向けての想い

昨今、問題になっているのが特に若年層の人口減少で、信濃町も例外ではありません。それを緩和する手段の一つが移住だと思いますが、そのためにはまず信濃町を知ってもらうことが重要です。

実際、県外在住の友人に信濃町に遊びに来てもらうと、約半数が「信濃町っていいね」という感想を持っていることが分かりました。中には関東や関西から毎月遊びに来る友人もいて、「それならいっそのこと移住すればいいのに」と思うこともあります。実際、真剣に移住を検討している友人もいます。

もしかしたら、100人バーベキューがきっかけで信濃町に移住してくれる人が現れるのではないか、とも思っています。今回の参加者のうち約100人が町外で、そのなかでも東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県、新潟県が多く、県内だと長野市や飯綱町が多かったです。この中から将来移住してくれる人が現れたら、嬉しいなと思います。

来年も同様に信濃町で100人バーベキューを開催しようと思っています。このイベントのコンセプトは、信濃町のなかで100人くらいでバーベキューできる場所を発掘して、毎年場所を変えてやっていきたいというものです。そうすれば、地域内で交流が生まれて活性化につながると思うからです。そのため、来年はまた町内のどこか別の場所で開催するつもりです。

実は昨年の100人バーベキューで素敵なご縁がありました。町内で移動スーパー「とくし丸」を運営しているご夫婦が後継者を探していました。すると、100人バーベキューの参加者のなかで希望者が見つかり、その後、実際に家族皆で移住してきて事業を継いだのです。

100人バーベキューが、信濃町にとって良い効果をもたらすイベントであり続けたいと思います。


取材を終えて

今回のイベントの特長は、地域に溶け込んだ移住者が、町の活性化のために動いたということでした。移住してくる人の動機はさまざまですが、飯田さんのように町を盛り上げてくれる移住者なら、地元の人も大歓迎なのだと思います。

実際、飯田さんはこのイベントに関係なく地元の人との関係作りを大切にしています。移住初日に自ら消防団に申し込んだのは、その最たる例だと思います。

地元住民か移住者か――。バックグラウンドに関係なく町を良くしようと思う人がいることこそが、信濃町の魅力ではないかと強く感じました。

<取材・執筆 ソーシャルライター/ 廣石健悟>