2人に1人ががんになる時代。今、がんは治る病気ともいわれますが、2024年の病死のトップはがんです。
多くの患者さんを前にして、病院では治療することに精いっぱいで、一人ひとりの心に寄り添うことは、なかなか難しいように思います。「がん哲学外来カフェ」(以下「がんカフェ」)は、その隙間を埋めるために始まった交流の場です。がん患者さんやご家族などを対象に、その人らしい生き方を対話で探します。お茶を飲みながらほっと一息ついて、不安や思いをお話しできる、安心安全な場です。
悲しみを抱える方々に寄り添いたいと、上智大学でグリーフケアを学んでいた頃、「がんカフェ」に出会い、千葉でがんカフェを開設。今年で4年目を迎えます。長野に移住を決めたのは、長野の自然と大好きな東山魁夷画伯の作品を見て暮らしたい、という思いからでした。
長野でのがんカフェを準備していた時、善光寺宿坊白蓮坊のご住職と出会い、知己を得て、ご一緒にがんカフェの開催を目指しました。ところが私に大腸がんが見つかり、1年間の闘病生活となりました。

突然、ご自身や大切な方ががん宣告を受けたらどうでしょう?
私は、眼前の色ある世界が、モノクロの世界に変わりました。「なぜ私ががんに?未来も希望も消えた」。「死」というものを、初めて意識した瞬間です。
治療の1年は、四季さえ感じられませんでしたが、回復とともに少しずつ自分を俯瞰できるようにもなりました。その時気づいたのは、家族の愛、人とのつながり、安心して話ができる人の存在でした。話を聴いてもらえ、肩の力が抜け、こころに風が通り「がんと共に生きる」新たな自分を考えられるようになりました。
実はそんな場所ががんカフェです。対話の中で、気づきや希望が生まれ、死生について考える機会にもなります。ご住職は「死を考えることは、今を生きる価値を与えてくれる」と話してくださいます。地域の方々ともつながりながら、分かち合い、思いを語ることのできる居場所が長野にも増えることを願っています。
最後に、ご住職をはじめ多くの皆様に応援いただき、がんカフェが開催できますことを心より感謝し、この場をお借りして御礼申し上げます。
執筆:がん哲学外来長野門前カフェ・ロータス 代表 中村 純子
初出:長野市民新聞 NPOリレーコラム「空SORA」2025年9月掲載