誰もが安心して楽しめるイベントを目指すチャレンジ
2025年8月10日(日)、長野市のリサイクルプラザ多目的ホールで「こどもたちが自分で選ぶ、自分で挑戦する、こどもだけのモールのようなお祭り『こどものモール』」が行われた。6回目の今回、初めて、障がいのある子どもたち限定で開催された。



これまで合同会社キキと株式会社ククリテによる「こどものモール」は5回開催してきたが、「みらいハッ!ケンプロジェクト」の電子ポイント※が配布されてもさまざまな事情により、参加できなかった子どもたちがいたことから、「障がいのある子どもや保護者の方が安心して体験できる場を作ろう」と、保護者たちにヒアリングしながら、今回の開催に至ったのだという。
主旨に賛同をしたボランティアたちにより「風船マットをつくろう!」「ドローンスポーツ体験」「自然素材でクラフトづくり」「楽器に触れてみよう!」「光と動きのアート体験」「ネイリスト体験」など、いくつもの「体験」が用意され、多くの親子づれが夏休みの一日をおおいに楽しんだ。
※「みらいハッ!ケンプロジェクト」とは、子どもの成長につながる上質な体験や学びの機会を提供する子どもの体験・学び応援事業として、令和5年度(2023年)から長野市が実施。各世帯には参加費代わりの電子ポイントが支給されている。
ネットでは得られない!
笑顔と可能性をひきだすさまざな「体験」
「体験」は、手を動かし、感覚を使い、他者と関わることで、子どもたちの社会的スキルも育まれ、さらなる好奇心を生むことにつながる。そのため、体験を提供するボランティアにも事前に、細かい作業が苦手・肢体不自由・大きな音が苦手、集中力が続かないなど、考えられる子どもの特性や制限について丁寧に説明を重ね、注意事項なども共有していったという。さらに、イベント会場には、ヒアリングを反映した安心・安全のための配慮や工夫があった。
- 車いす・バギー対応のバリアフリーな会場
- クールダウン用の休憩室も用意
- 身障者用トイレ、大きな子ども向けのおむつ交換スペースがある
- 予約不要・入退場自由
- 整理券配布で行列回避
- 障がい児支援の専門スタッフが常駐
自然素材でクラフトづくり体験 by「山楽会」
森や山でひろってきたドングリや小枝、葉っぱなどをつかったクラフトづくり体験を提供していた山楽会は、グルーガンを使用するので、万が一でもやけどなどしないようにと、一人の子どもに一人のスタッフがつけるように10名体制で参加、スタッフたちに感想を聞いた。
「ひとつひとつ違う素材を前に、大人では想像もできない発想力で、自分で考えてつくる楽しさを感じてくれているようでうれしいですね」「いつも気を張り詰めている保護者の方たちにとっても、一瞬でもホッとできたらいいな、そんな気持ちもあります」と語っていた。 (談:山楽会・赤沼正英さん 松本博文さん)


光と動きのアート体験! by信州大学工学部 電子情報学科システム工学科 北研究室
音が苦手なお子さんや、体の動きに制約がある特性や、「集中力が続かない子でもできる体験を!」など、事前にイベントコーディネーターの方から丁寧に説明があり、どんなことに気を付けたらいいのかがよくわかりました。「長く説明しなくても楽しめるもの、しかも安全に」を考慮しながらの「作品」のプログラミングは難しかったですが、それもまた楽しかったです。季節感を大事に花火の演出してみました。何度も、何度も喜んで来てくれるお子さんの笑顔をみて、こちらもうれしくなりました。また参加したいと思っています。(信州大学工学部 北直樹先生談)


ジョブ若槻 主任児童指導員 米山学さん

ドローン体験 byデイサービス就労支援型デイサービスのはぴねす ジョブ若槻
「自分のからだではないドローンのリモコンを自分の指で操作することは、脳科学的にもとてもいいんですよ。多くの子どもたちが体験できてよかったです」



参加保護者の声
「これまで参加をためらっていたが、今回は“障がい児限定”という安心感があり、兄弟も一緒に楽しめた」「予約不要・出入り自由という配慮が、心理的ハードルを下げてくれた」——そんな声が参加者から寄せられました。
「何も体験しなくても、ここに来られただけで満足」
事前ヒアリング会に参加しイベント終了間際に子どもと来場した長野市在住 Oさん
自分も、できるだけ積極的にこうしたイベントに参加しようと思っているし、子どもに体験させたい気持ちはあるんです。ただ、意思疎通がむずかしい子なので、どこにいくにも目がはなせないし、やっぱり、ほかの参加者に迷惑になるかも、という遠慮もあって、これまでは参加できませんでした。そういう気持ちを当事者どうしの保護者で話すことはあっても、ヒアリングの機会があって、とても真摯に聞き入れ反映させたイベントになっていてうれしいですね。だからこそ、参加したい、と思えたんです。会場になんとか連れてくることができたとしても、何が嫌なのか、何がやりたいのかがわかりにくかったり想定ができないので、特性を理解して予約不要、出入り自由という点も助かります。 結果的には、子どもが何もやらなくても、反応しなくても、それでもいい。ここに来ただけで帰ることになったとしても、それでも今日、来れてよかった。わが子とこの会場にこれただけでも、けっこう満足しています。


ネイリスト体験中の4歳女児の保護者 長野市在住 Nさん
10歳の重度障害のある長男と4歳の双子の男女の3人の子育てをしています。「こどものモール」は知っていましたが、上の子のことがあるので、参加できませんでした。今回のように、「障がいをもつこどもたち限定」という形で開催してくれたからこそ、「行ってみよう」とおもえたし、障がいに理解のある専門スタッフがいることで、安心して参加できました。今も上の子をお願いできているので、4歳のこの子のネイルケア体験をいっしょにできているんです。今後も「障がいのある子ども限定」という形なら、また来たいですね。障がいのある子の兄弟たちにとっても楽しめる体験ができる機会はなかなかないので、ほんとうによかったです。


「障がいのある子限定イベント」は、ゴールではない。
主催者 株式会社ククリテ 代表 石黒繭子さん
これまで施設運営をしてきた経験やノウハウが今回のイベントで使えることができ、一般化できるとわかったので可能性がひろがりました。一方で、「あらゆる障がいのお子さんを対象にする」ということは、想定内で終わるわけがない。かなりチャレンジングでした。それでも開催するからには、「何がおこってもだいじょうぶ」 という気持ちで準備をしてきました。今回のような「障がいのある子ども限定」のイベントは確かにチャレンジですが、それは、ゴールではない。あくまでステップの一部。目指すは、やはり、だれもが、安心して、楽しめる、生活し、成長していける社会にしていくことなんです」
「ハードルがなくなるわけではないけれど、出展したみなさんとのつながりができ、障がいについて何も知らなかった人たちが、知ったことで他人事でなくなる。そういった意味でもボランティアの方々との関係構築も寛容な社会の入り口なんです。新しい理解のある人が増えていくことで、心の垣根を一つはずす機会になったことは確か。」と、力強く語った。
筆者がインタビューに答えてくれた参加者の「兄弟や家族全員が一緒に参加できて、ここに来れてよかった」という言葉を伝えると「その声をきけただけで、今回、取り組んだ甲斐がありました。大きなハッケンです。」と、素敵な笑顔を見せた。

主催者 合同会社キキ 代表 九里美綺さん
企画の前段階で「障がいを持つお子さんの保護者の方たちから、できるだけ丁寧に不安なことや要望を聞き取るため、4~5回にもわたるヒアリングを行いました。その声を反映させて開催できたことは
本当によかったです。今回のイベントが「障がいのある子ども限定」を伝えながらも、それは、安心のための過程であることも伝わるように、SNSなどの文章は、気を配りました。駐車場や開催時期など見えてきた課題もありますが、今後は、本当に必要なこどもたちや家族が、安心して参加できるように、しっかりと情報発信をしていくことにも力を入れていきたいと思っています。
小さな声に耳を傾けることから始まる
取材を通して、参加保護者の声が特に印象に残った。自分たちの声をヒアリングしてくれた主催者への感謝の言葉や「障がいのある子の兄弟姉妹に、なにかと我慢をさせている」という親としての葛藤の声だった。声なき声に耳を傾ける社会を目指すためには、届きにくい声や言葉を真摯に聴く姿勢とその声を発信していく重要性をあらためて感じた取材となった。
ソーシャルライター 大日方雅美


