2024年7月7日(日)、長野市のもんぜんぷら座3階で「罪を繰り返さないため市民活動ができること」が開催されました。これは「罪を犯した少年(※1)の更正のために市民ができること」をテーマに更正の現実を知ってもらうために開催され、NPOなどの支援団体をはじめ、保護観察所の職員や保護司など実際に少年の更正に関わる人のほか、更生に興味のある人計30人が参加しました。主催は市民協働サポートセンターまんまるです。
※1「少年法」における「少年」とは20歳未満を指します。少女も少年に含まれます。この記事では同様の意味で「少年」という言葉を使用します。
少年鑑別所の役割と少年犯罪の動向
朝比奈 卓さん
長野少年鑑別所 所長
長野市三輪にある長野少年鑑別所は犯罪を犯した少年(20歲未満の男女)が、家庭裁判所の審判がくだるまでの間、収容される場所。
はじめに長野少年鑑別所所長の朝比奈卓さんより少年鑑別所の役割と、少年犯罪の動向について説明がありました。
20歲未満の少年は、警察や検察の取り調べを受けたのち家庭裁判所へ送致され処分を決められます。逃亡や証拠隠滅、自傷・自殺の恐れがあると判断されると少年鑑別所へ送られます。
少年鑑別所の主な業務は、看護処遇(収容)と鑑別。前者は身柄を確保したうえで審判に向けた準備や規則正しい生活をするよう促すことで、後者は犯罪(非行)の原因を探ることだといいます。
少年犯罪の動向についての説明では、全国で「少年鑑別所の入所者数は24,850人(平成15年)から5,424人(令和4年)と減っている」とのこと。一見改善したように見えますが、「殺人や強姦などの凶悪な犯罪が減っている一方、詐欺や大麻は増えている」、「集団での犯行が減る一方、単独犯が増えている」と、その傾向を示しました。
その原因について、SNSでのやりとりが活発化し、(面と向かって集まる)不良グループや集会が減ったことにも触れ、その背景には、家庭での児童虐待件数の増加、保護者の貧困や社会的孤立などが絡んでいること。そして、実際に鑑別所では「常に大人を警戒し将来の展望や成功体験もない」という多くの少年たちが抱える心の問題について言及。「孤立・孤独が非行(犯罪)につながった」、「非行(犯罪)からの立ち直りは零か百かの失敗できないものだと思っていた」と当事者(少年院出所者)の声を紹介しました。
こうした少年たちの状況を踏まえ朝比奈さんは、「罪を犯しても立ち直って普通の社会人になるのが大半。立ち直りにはいくつもの出会いや支援が必要」と、更正には地域の力の必要性を訴えました。
少年の更正に関わる支援者6名によるトークセッション
登壇者紹介
次に行われたのは登壇者6名(うち1名はリモート)によるトークセッションです。
以下、登壇者の紹介とともに発言内容を要約してお伝えします。
山本 樹里さん
長野少年鑑別所 統括専門官(考査担当)
長野少年鑑別所に入所する少年の面接等を担当するほか、長野少年鑑別所内に設置した「法務少年支援センター長野」という名称で非行(問題行動)の当事者や家族、支援者からの相談を受けている。
春日 宏さん
特定非営利活動法人 信濃あすなろ会 児童自立援助ホーム 夢住(むす)の家 指導員
この道32年(2024年現在)のベテラン。同施設は義務教育を修了後20歲までの働かざるを得ない少年のうち、養護性のある者が生活を送る場。少年院出所者も受け入れている。
江村 洋子さん
長野地区保護司会 更生保護サポートセンター サポートセンター長
長野地区保護司会は長野地区(長野市、信濃町、飯綱町、小川村)の保護司約150人が所属。保護司とは保護観察処分となった少年の社会復帰を生活面でサポートする役目で、法務省から委嘱を受けたボランティア。
鳥海 祐貴さん
降旗興行株式会社 取締役副社長
長野市松岡にある道路工事や外構工事(造園やガレージ作りなど)を行う降旗興行株式会社は、2017年ごろから元受刑者の採用を取り入れ、社員寮を提供。会社一丸となり再犯防止に努めている。
松浦 亮輔さん
プリズンヨガサポートセンター 代表
ヨガを通して受刑者(出所前)の更正をサポートする活動を実施。受刑者との手紙のやりとりを通して、ヨガ・瞑想についてアドバイスしたり、言葉を通したつながりを育む。
登壇者それぞれの感想や課題感
山本さん
(他の登壇者の話を聞いて)少年が鑑別所に入る前に、学校や社会福祉施設など地域に支えられていることが分かりました。少年たちは人とのつながりを作るのが下手な人も多いため、いろいろな人が少しずつでも関われるようになれば良いと思っています。
春日さん
この業界で32年間仕事をしているため、当初18歲だった少年が今では50歲になっています。その中で分かったことが、「社会に出て30歲や40歲になり(少年のころに受けた助言や指導を)ありがたいと思ったら人は変わる」ということです。反省は1人でできても、更正は1人ではできないと私は思います。
江村さん
保護司は保護観察期間が終わると、少年とは関わりがなくなります。助言や指導はあまりできないかもしれませんが、保護観察期間中は寄り添ってきちんと話を聞くようにしています。
鳥海さん
これまで30数人、元受刑者を採用してきましたが今残っているのは10人くらいです。すべての人に同じ様に接しても仕事を続けるのが難しく辞めていく人がいるのは確かです。一方、人に頼られて仕事が楽しくなり、結婚して子どもが生まれた社員もいます。良い方向に変わったときは嬉しいですね。
松浦さん
私たちは(少年院などの)施設の中に入ってから関わるということをしています。ただ、施設に入る前の人間関係も良いものであればなと思うときがあります。
「社会(市民)にできること」とは何か
春日さん
まず知ることからはじめてほしいと思っています。そして、地域に(児童自立援助ホームや少年鑑別所が)あることを知ってほしいです。そのうえで、できる人ができることをやればいいと思っています。
山本さん
周りに悩んでいる人がいたとき、力になれる人につないだり紹介することで支援の輪が広がっていけばいいと思います。(問題があると感じても)家族や友人が口を出しづらいケースもあります。しかし、個人で抱え込むのは辛いので、今日知ったことを活用してほしいです。
江村さん
まずは知ってもらえるだけでいいと思います。7月は「社会を明るくする運動」の強調月間のため、7月1日の夕方にJR長野駅前で更生保護の啓発活動の一環としてティッシュやチラシを配りました。しかし、知らないといった様子の人が多かったように思います。今後、篠ノ井や更北でも7月中に配る予定ですので、多くの人に更生保護のことを知ってもらえればうれしいです。
鳥海さん
私たちのような(元受刑者を雇用している)企業を知ってもらうことが大切だと思います。出所後に弊社に就職し、今では社員寮を出て自分で生計を立てているある社員は、地域の人から野菜をもらったり一緒に食事に行くこともあるそうです。これは長野県の地域性の良い部分だと思います。
松浦さん
犯罪の背景には何があるのか?といつも考えています。
参加者と登壇者の質問タイム
Q1 建設業で、他にも元犯罪者の少年を受け入れている企業を教えてほしい。
鳥海さん
当社は法務省と日本財団、そして民間企業が協力して再犯を防止する「職親プロジェクト(※2)」に参加しています。全国展開しているプロジェクトで今度長野県にも支部ができる予定です。まだ、このプロジェクトに参加している建設業は少ないですが、(プロジェクトとは関係なく)元犯罪者を雇用している協力雇用主は長野県内に何社かあります。
※2:元受刑者の仕事や生活をサポートして再犯防止に努めるプロジェクト。関西から全国に拡がった。
日本財団 職親プロジェクトのHPはこちら。
江村さん
協力雇用主には20社ほど登録していただいており、実際に3、4社は雇用していると聞いています。
春日さん
長野県中小企業家同友会(※3)と連携を取りながら、社会的養護が必要な少年の就労支援を進める活動をしています。
※3:中小企業の経営者の集まり。長野県内にもいくつかの支部がある。
Q2 なぜこのイベントに参加しようと思いましたか?(鳥海さんからの質問)
私が働いている会社では、企業としていくつかの少年院に本を寄贈支援しています。また、県立長野図書館にも関わっていますが、図書館のような公共施設でつながりを作れる場ができないかと考えています。上田市では、困っている人が1泊500円で泊まれる施設の運営にも関わっており、何かできることはないか?と考えるなかで参加しました。(参加者Aさん)
参加者によるグループワーク
トークセッションが終わると、参加者は6つのグループに分かれてイベントの感想や参加理由を話し合いました。グループワーク後の全グループの発表から、一部を抜粋して紹介します。
- 保護司のなり手が少ない。ボランティアではなく賃金が発生するのであれば増えるかもしれない。
- まず大人がきちんと生きていくこと。それが子どもの幸せにつながると思う。
- パパ活を自分の幸せだと思いこんでいる少女もいる。「自分を幸せにする手段」を、大人が「本当の愛」とともに教えることが大切。
- 「こうやればよい」という画一的な方法はないが、事例を知ることで地域でできることはあると思う。
- 社会に出るために法律で規制して(少年鑑別所や少年院のように)隔離するとかえって少年が孤立するのでは?と思った。
- (自身が運営する)子ども食堂に小学生は来るが、中高生はなかなか来ない。その年代ほど支援を必要としているのではないか?
- (長野市新諏訪にある)更生保護施設「裾花寮」は国が運営していると思っていたが、民間が運営していると聞いて驚いた。あれほど大変な事業なら本来国がやるべきではないか?
取材を通して感じたこと
人はそれぞれ与えられた環境の中で生きています。特に幼少期の環境は、自分の力だけでは変えられないこともあります。仮にそのような理由があったとしても、犯罪行為(法律に抵触する行為)は、許されるものではありません。
ただ、保護観察を終える、あるいは少年院を出所するということは、罪に対する法的な責任を果たしたといえます。感じることは人それぞれあると思いますが、まずは他の人と同様に接するのが理想の地域像の一つではないでしょうか。
筆者は仕事の兼ね合いで、成人および特定少年(犯行時18歲あるいは19歲だった者で検察官送致された者 ※4)の刑事裁判を傍聴することもあります。傍聴席から見える被告人の姿や言動は一般的な人と変わらないこともあり、被告人だと言われなければ分からない人もいました。
犯罪行為に至ったきっかけとして、些細なことが最後の引き金になっているという印象もあります。その引き金を二度と引かせない人生を、私たちができる範囲でサポートすることが大切ではないでしょうか。
※4:法務省「少年法が変わります!」
<取材・執筆>ソーシャルライター 廣石健悟