7年目を迎えた「まるキャン」事業 活動団体と学生が一堂に会して「協働」の意味を考える

地域まるごとキャンパス(まるキャン)の取り組みは、長野市内を中心に2018年度にスタートし、2024年度で7年目。年間30を超えるプログラムが各種団体から学生に提供されており、すっかり地域に定着しています。学生が地域の人たちといっしょになって考え、地域での活動を企画・運営して進める活動です。学生は普段の学びのキャンパスから飛び出し、地域全体を“まるごとキャンパス”と捉えて地域の人たちとつながり、いっしょに活動することで長野の人や自然の魅力を発見します。その体験を通じて「自分が暮らしている地域を好きになる」ことをめざした事業です。

2024年度は高校生125名、大学生・専門学校生15名、合わせて140名が参加しました。年度別の参加者数は別表の通りで、2020年度はコロナ感染拡大の影響で減少しましたが、2022年度以降は150名前後が続いています。各学校で始まった「探求学習」の影響もあるとみられ、高校生の関心が高まっています。

プログラムを提供する団体と学生との「活動報告・交流会」が2024年12月1日、長野県立大学で実施されました。「協働」とは何かを活動実践報告や講義、ワークの体験から学ぶ場となりました。

「活動報告・交流会」の会場は長野県立大学
主催者作成のパワポ資料①

ながの地域まるごとキャンパスの事業が誕生した経緯

この事業が生まれたきっかけは、2018年、長野県立大学の開学でした。県立大学の1年生は全員が象山寮に入寮します。その象山寮のプログラムとして、学生が地域に飛び出してさまざまな人や活動に出合う機会を創りたいという相談を大学から受けた長野県NPOセンターが「ながの協働ねっと」の協働プログラムとしてまるキャンの事業を提案しました。

※ながの協働ねっと 「ながのの未来を創る、みんなの新しいコミュニティ」 NPO同士はもちろん、市民・企業・行政・起業家ら多様な人々が集い、市民が自主的につながり、未来志向で議論し、共に地域・社会の課題解決に向けた事業を企画実行することで、新しいコミュニティが長野に育つことを目指すネットワーク。

NPOの組織や地域活動をしている団体の現場でも、若者たちの視点や気づき、機動力を求める声があがっていました。高校・大学時代から地域の一員として学生にも地域活動に参加してもらいたいとの思いです。地域を知り、学校や家族以外の人たちと人間関係をつくり、人や自然の魅力を肌で感じることによって学生のみなさんに地域とのつながりを感じとっててほしいとの考えが広がっていたのです。

長野市は人口の転出超過です。特に15~24歳の転出者が多く、一方で市内の高齢化率は全国平均を上回るペースで進んでいます。若者たちに、地域を大切に思う心、地域活動で出会った人たちとの関係があれば、いったん県外に出たとしても、「また長野に帰って来たい」という気持ちになるかも知れません。

まるキャンの活動を通じて地域を知ってほしい、学校では出会えない人や地域の課題に出合ってさまざまな視野を持って成長してほしいと考える市民活動団体や企業がプログラムを提供することによって、この「協働」による事業が展開されています。昨年度から長野市の主催に変更となり、「ながの若者スクエアふらっと」の事務局が運営する形に発展しています。

ながの地域まるごとキャンパスの特徴

学生は提供されたプログラムのなかから、自分が好きな活動を選ぶことができます。年間を通しての事業なので、思い立ったときに申し込むことができるし、複数のプログラムへの参加も可能です。

活動先でのコミュニケーションや気づきを促すため、各プログラムは3日以上参加することを基本にしています。受け入れる団体側も、学生を仲間の一人であるとの認識で企画から主体的に参加してもらうようにしています。団体側は学生を単なる「人手」として捉えるのではなく、学生のやりたい気持ち・主体性を大事にすることによって、1日だけの体験ではなかなかできないお互いの関係性を築くことを目指しているのです。

主催者作成パワポ資料

多種多様な地域活動をプログラムとして提供

「活動報告・交流会」は三部構成の内容で行なわれ、第一部は活動団体がそれぞれ活動内容を紹介しました。それを聴いた参加者は、興味を抱いた団体の展示ブースにメッセージを書いて届けたり、質問に訪れたりして交流を深めました。各団体の活動内容や学生の声、提案団体の声はB0判の大きな用紙に書き出して壁に張り出され(写真)、資料でも配布されました。

各団体が活動内容を紹介

 どんな活動が2024年度のプログラムとして提供されたのか紹介すると――

☆「長沼アップル放送局」で映像情報の発信(Hope Apple)
☆KIDSとあそぼう! 夏のまめっ子サロン(大豆島地区住民自治協議会)
☆西之門こどもレストランを運営しよう!(西之門青年部)
☆お祭りスタンプラリーと子供フェスタ(第三地区住民自治協議会)
☆食農体験&子どもの居場所作り『バスでGO!』(天空の里 いもい農場)
☆子育て地蔵盆、お祭り縁日を盛り上げ隊!(栽松院)
☆体験型のお祭り 楽市楽座をもりあげよう!(楽市楽座でつなぐ会)
☆大岡の自然を体験!「冒険の地図づくりプロジェクト」(NPO法人Oooka森の学び舎)
☆子ども第三の居場所 ながのこどもわくわくカフェ(NPO法人ながのこどもの城いきいきプロジェクト)
☆商店街の夏祭り・ハロウィン縁日を盛り上げよう!(岡学園トータルデザインアカデミー長野プロデュース科)
☆「左官塾2024」を若者の知恵と力で成功させよう!(しなの長沼・お屋敷保存会)
☆みちくさ長命寺居場所プロジェクト(みちくさ)
☆子育てや少子化問題について考えてみよう!(特定非営利活動法人ながのこどもの城いきいきプロジェクト)
☆ヒロシマの過去を学び平和を考えよう!(被爆体験を聴く会)
☆若者の拠点ふらっと♭で夏休みのイベントを企画しよう!(ながの若者スクエアふらっと♭)
☆若者イベントカフェ“tsunagno”(ツナグノ)(株式会社CREEKS)
☆江戸時代から続く伝統の杜煙火のこれからを一緒につくろう!(犀川神社煙火保存会)
☆茶臼山動物園「サマーナイトZOO」を盛り上げよう!(茶臼山動物園)
☆飯綱高原でワクワクする里山を創ろう!(NPO法人飯綱よっこらしょ)
☆子ども・若者の声を「子ども白書」に登校し発信しよう!(長野子ども白書編集委員会)
☆ノウフクって?農業×福祉を体験しよう(特定非営利活動法人信州能力開発ネットワーク)
☆文化財登録を目指す『ながの祇園祭』の運営(ながの祇園まつり)
☆FICTS nagano国際スポーツ映画祭2024を運営しよう!( FICTS nagano実行委員会)
☆ワールドフェスタin長野を盛り上げろ!(にほんごプラス)
☆自然体験にICTを活用したサマーキャンプ(有限会社ノアSTEAM教育研究所)
☆里山に集まりたくなる森の中の教室を作ろう!(Team Yamassho)
☆ジェンダーを考えよう…大人は? あなたは?(長野市人権・男女共同参画課)
☆しののい軽トラ市でにぎわいづくり(ながの軽トラ市in篠ノ井実行委員会)
各団体の活動内容や学生の声、提案団体の声はB0判の大きな用紙に掲示して壁に張り出され、資料でも配布されました。

プグラム内容は多種多様で、提案団体はNPOや地域活動団体に限らず、事業の趣旨に賛同した住民自治協議会、企業、寺院など幅広い組織の参画があり、教育機関(大学・高校・専門学校など)や行政と連携しており、毎年少しずつ広がりをみせています。地域にあるさまざまな資源と学生との結びつきによって、自主的・主体的な事業が地域のなかで展開されていると言えそうです。

主催者作成のパワポ資料

「協働」の活動事例を発表

第二部は「協働」事例の発表でした。長野県社会福祉協議会の川崎昭二さん、被爆体験を聴く会の土田昇さん、つくば開成学園高校ボランティア委員会が活動の内容を紹介しました。

川崎さんは、プログラムを通じて「福祉とは何か」を体験しながら学び、さらに多くの人に知ってもらう活動に取り組んでほしかったと説明しました。日常の生活の中で、交通信号の切り替わる所要時間やエレベーターの開閉ボタンなどのなかに「福祉的な配慮」がされている例をあげました。

土田さんは映画「ひろしま」の上映を通して自分たちに何ができるかを考えた活動を紹介しました。

つくば開成学園高校(長野市内の通信制高校)では、地域で実施されるさまざまなイベントに学生が参加してきましたが、単発だと地域の人たちの関りが持ちにくいことからボランティア委員会を立ち上げたとの説明がありました。市民協働サポートセンター「まんまる」の仲介によって長野市浅川地区へ継続的にボランティアで入ることができるようになり、参加した学生たちは活動のなかで、「出会いからつながりへと進んだ」「好きなことに打ち込んでいる大人は素敵だと思った」「視野が広がった」「作業を通じて人のためになりたいと感じた」などの感想をそれぞれ語りました。

3団体の発表は、「協働」の取り組みによって新たな成果が生み出せることを印象付ける内容でした。

川崎昭二さんの発表
土田昇さんの発表
つくば開成学園高校の紹介
ボランティア委員会の活動発表

「協働」の活動が持っている意義を考える

第二部の後半は、「協働ってなんだろう」をテーマにした県立大学ソーシャルイノベーション創出センター長の東俊之さんの講義でした。

東さんは、「みんなで協力しないと何か一つのことが成し遂げられないとき『協働』が必要であり、いろんな考え、知識、能力を持っている人たちがいっしょに頑張ることでコトが成し遂げられる」と説明。それはコラボレーションであるとして「さまざまな組織が専門性や知識という資源を持ち寄って組み合せ協力しながら相乗効果を生み出して課題の解決に向かうこと」だとしました。そして、「協働」をどのようにしたらうまくいくか、組織間のコラボレーションのプロセスについても詳しく解明しました。

プログラムを提供する団体の人たちも、まるキャンに参加する学生たちも、自分たちの活動がどのような意味を持っているかを理論的に整理することができました。

東俊之さんが「協働」の意義を解説

「協働」の作業で新聞紙タワーの“建設

第三部は大交流会でした。参加者は数名ずつのグループに分かれ、学生と活動団体の人とが力を合わせて新聞紙10枚を使ってタワーを作る作業にチャレンジしました。未知の体験となる創作は、知恵と技を駆使して「協働」の力が必要でした。限られた時間内に完成させ、出来上がったタワーの高さをグループ間で競うというワークです。

最初に作り方を検討する「作戦会議」があり、新聞を丸めてみるなど手探りで試作してみて、その後本番です。スタートの合図で時間内にタワーを作り上げます。倒れたら残念ながら失格です。

実際にやってみると頭で考えた通りにはならず苦戦するグループが続出。まさに未知の体験であり、いかにしたら倒れないかの工夫には「協働」の力が不可欠であることを、実感を持って学び取りました。

そのあと、「学生のみなさんは忙しいなか、なぜ活動(まるキャン、自身の活動、ゼミ等)をするのか」「学生に聞きたいこと、大人に聞きたいこと」をテーマにグループ内でトークを行ないましたが、「協働」作業の後だっただけに、和やかに本音が飛び交ったようです。

 この大交流会のコーナーは学生の実行委員が担当した企画で、運営も学生が行ないました。

新聞紙タワーづくりに挑戦

まるキャンに参加した学生の感想

まるキャンに参加した学生はどんなことを活動のなかで学んだのか。感想をいくつか紹介すると――

☆地域も年齢も性別も違うさまざまな人たちと関われて、いろいろな考え方が身に付いたと思います。
☆実際にお子さんと遊んだり、リアルなお母さん方の子育てに関する悩みを聴ける機会が得られたりしたことがありがたかったし、楽しく活動することができました。
☆自分がした些細なことでもありがとうという言葉をかけていただいた参加者のみなさんの温かさに触れることができてよかったです。
☆言われたことをするのではなく、自分たちのしたいことをやらせてくれたのがよかった。
☆たくさんの初めて会う方と農作業をして、障害を持っていても社会に貢献できる場はたくさあると感じました。
☆農業をやるためにはコミュニケーションが必要なこと、社会に出ていろいろな価値観を学ぶことの大切さを感じました。

地域活動への関心・意欲が高まる

活動を通じて今後地域活動に参加したいと思うかをアンケートで聴いたところ、「参加したい」が64%、「どちらかというと参加したい」が36%で、全員が地域活動への参加意志を示しています。まるキャンに関わるまでは地域活動に参加したことがないという人が52%いましたが、その全員が「今後も参加したい」と回答しています。まるキャンの活動を通して地域活動への関心・意欲が高くなっていることがわかりました。

主催者作成のパワポ資料④
学びと交流を深めた参加者

取材・執筆 太田秋夫(ソーシャルライタ

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