「みんなで観よう、語ろう、つながろう」と呼びかけた住民ディレクター交流会が2025年1月18日、長野市で行なわれました。映像を制作してYouTubeチャンネルなどで発信する活動を、実際の作品を観ながら交流し、「住民ディレクターとは何か」を考え活動への思いを深める催しでした。

主催したのは「ながの協働ねっと」です。ちょうど1年前の1月、市民協働サポートセンターが「NPOステップアップ講座」として「誰でもどこでもテレビ局 ― 番組作りは地域づくり」という学びの場を設け、住民ディレクターを提唱している岸本晃さんを招いて「東峰テレビ」(福岡県東峰村)の活動を紹介してもらいました (ながの協働ねっとが共催) 。

スマホやデジカメ、ホームビデオカメラで動画を撮影し、番組づくりをすることで地域資源を掘り起こし、地域の課題に取り組むことができます。今回の企画は、1年前の講座を発展させる形で、長野市内でそうした活動を展開している団体・グループが、今回はお互いの番組づくりを交流して、その手法を学ぶという企画でした。

※ながの協働ねっと 市民の自主性が活かされ、NPOが活躍する地域、多様な人々が結び合い、共に生きる未来志向の新しいコミュニティを創ることをミッションとし平成26年に設立された団体。

どんな方法で制作・発信しているか

撮影・編集してから決まった日時に公開、定期的に放送時間を決めて生中継、毎週の配信、月に1回の配信など、やり方や放送のテンポはさまざまです。主体とする内容(目的)も異なります。交流会は実際の映像を観ながら、その特徴を知るところから始まりました。

長沼アップル放送局〉

5年前の台風19号被災地長沼地区で支援活動をしているHope Appleが2年ほど前(2022年12月)にスタート。取材して編集したものを「つなぎの杜」という番組で毎月25日に公開しています。地域の住民や支援に来てくれたボランティアに地域のいまの動きを届けることをめざし、またイベント等に参加できなかった人にはイベントの内容が伝えられるように工夫しているとのことでした。

地域まるごとキャンパスに参加した高校生が取材・撮影・編集した「作品」も放送されており、このうち2本が紹介されました。片手間での制作のため、公開日が近づいから慌てて作るという現状が悩みとして語られました。

〈松代テレビ局〉

毎週月曜日午後7時からスタジオで生中継をしている「しゃべくり松代」は今年1月で740回を重ねました。スタジオは「NPO法人夢空間松代のまちと心を育てる会」の事務所の中に設置されます。午後5時半頃から部屋の一角に机を並べ、撮影機材を配置して準備します。

内容は地域の話題を拾い、事前に取材をしたあとスタジオにゲストを招いてMCがインタビューする形での放送です。15分ほどの放送で、用意した資料なども切り替えて映し出します。最近は話している言葉を文字で画面上に表記して伝えるようにしているとのことでした。長野市で最も古く、回数も多い「老舗」的な存在です。

〈ながのTV〉

長野市ボランティアセンターのなかで毎月第二火曜日の午後7時からの生放送です。市内のボランティア団体の活動を紹介するのがメインで、もう10年ほど続いています。6時頃からMCがゲストと事前の打ち合わせをし、その後本番になります。

既存のテレビ番組をもじった「ボラフェッショナル」という企画番組の紹介もありました。ボランティアのつどい実行委員長に「つどい」の朝から密着取材し、「土田昇の流儀」として編集。つどいの流れとともに、取り組みの中心になった土田さんの人柄がわかるように編集したとのことです。地域を訪ねる企画番組もあり、こちらは「ブラナガノ」と名付けています。

〈しなてら〉

県立大学の学生がTikTokで地域の魅力を発信しています。善光寺や長野駅前で外国の旅行者の姿が見受けられるなか、もっと郊外の地域の良さも知ってほしいと考えて映像づくりに取り組んでいます。外国の方に発信したいという思いがあり、昨年12月に松代地区の魅力を紹介しました。すでに9,000を超す再生がされているとのことです。

きっかけは長野市のまちづくり補助金を得ることができたこと。メンバーはボランティア活動にも参加しており、自分たち自身がまず地域の魅力を知って、それを発信していきたいと話していました。若い感覚でスピード感に満ちた編集で視聴者を引き付ける内容でした。

〈NPOカフェまんまる〉

市民協働サポートセンターの発信です。以前はFM善光寺で団体紹介をしていたこともあるとの話でした。ゲストを招いて話を聞きYouTubeで発信しますが、見てもらうための工夫として概要欄に内容の項目と流れる時間を入れて希望の場面にアクセスしやすくしているとの紹介がありました。

つなぎの杜 チャンネル案内  松代テレビ しゃべくり松代 – 検索 動画

ながのTV – YouTube  しなてら (@shinatera.un) | TikTok

市民協働サポートセンターまんまる – YouTube

各放送の取り組みや内容を報告して交流

住民ディレクターとしての思いを語ろう

このように各団体・グループの映像制作方法や発信の仕方に違いがあっても、住民ディレクターとして共通している点がありそうです。映像の鑑賞と説明を聞いたうえで「住民ディレクターとは何か」を考え、みんなで発表し合いました。映像番組を制作して発信する市民(住民)のことを住民ディレクターと呼んでいますが、その「住民ディレクター」という言葉に、どんな意味付けがされたか拾ってみると――

☆興味発信ワクワクアカウント
 興味あることを発信するので。

☆発見・驚き・感動の入口(探究)

☆アイドル
 一方的に愛されるのではなく、ほめて助け合って育てるのがアイドル。地域に愛されているディレクターなのでアイドル。

☆地域への愛を伝える人
 自分の地域の好きを〈推す〉人。〈推す〉人も〈推される〉人も頑張る。

☆地域の〇〇発信者

☆寝ても覚めても地域が好きな人

☆ドラえもん
 願いを叶えてくれるので。

☆地域に関心があって何か役に立ちたいなと思っている人
 写真や映像などの趣味で行動に移す。

☆地域の水先案内人=船長の助言者
 地域のリーダーを登場させるが、進む方向を間違えないように陰で後押し。

☆足元を見る遠めがね
 テレビジョンには遠くを見る意味があるが、私たちの活動は足元を見ている。

☆好奇心が強く、おせっかいなオタク
 こまかいことにこだわって編集している。

☆地域を楽しくして、自分も楽しむ人

☆地域密着型の配信者

☆地域を発信する演出家
 地域が脚本で、どこを切り取って演出するか考えている。

☆地域の魅力を発見して伝える「プロ」
 技術的な面でなく、人を巻き込んでいく面でのプロ。

さまざまな「定義」が出され、住民ディレクターが果たしている役割がクローズアップされる場となりました。そのあとの交流タイムでは名刺交換をしながら、つながりを深めていました。

住民ディレクターとしての思いがほとばしり出る

「なるほど」とうなずける「定義」が続出

つながりながら活動を広げたい

参加者は約20名で、住民ディレクターという言葉を聞いたことがなかったという人もいましたが、交流と意見交換で理解が深まったようでした。

まだなじみの薄い「住民ディレクター」ということば。住民ディレクター活動の提唱者・岸本さんは、暮らしの知恵の受発信で生活を豊かにしていく「人」が住民ディレクターだとしています。東峰村では、地縁地域共同体社会とデジタル縁社会を結ぶインターフェイスの役割を担っていると説明しています。

映像を制作して発信する人は近年増えていますが、地域課題をテーマにし地域をよくしたいという思いから取り組んでいても、発信者同士の横のつながりは十分とはいえない現状です。つながりながら、お互いに切磋琢磨してこの活動が広がっていくことを主催者は意図していました。

後半は場所を移し、「新年会」と位置付けて交流とつながりをさらに深めました。

このなかで蕎麦打ち職人丸山朝陽さんを招いて実演してもらい、打ち立ての蕎麦を味わう体験をしました。丸山さんは大学1年生。高校時代は吉田高校戸隠分校そば部に所属し、2023年全国高校生そば打ち大会では個人戦第三位という成績をおさめています。丸山さんが運営するそば教室「そば358(そばさいこーや)」では、そば教室を開催する他、指定された場所での出張そば教室やイベント会場でのそば打ち実演もしています。

しつかりコシのある美味しいそばを堪能するなかで丸山さんへ激励の声が掛かります。地域の魅力ある人にスポットをあてて、つながりを演出するという住民ディレクターの集まりらしい「新年会」でした。

蕎麦を打つ丸山朝陽さん
丸山さんの蕎麦打ち実演①
丸山さんの蕎麦打ち実演

取材・執筆 太田秋夫(ソーシャルライター)