台風や地震などの災害時に力を合わせて復旧・復興に取り組むためには行政、社会福祉協議会、民間のボランティア組織などが情報を共有して被災地(被災者)のニーズに対応することが必要になります。そのとき役立つのが「情報共有会議」です。5年前の台風19号災害のときも「情報共有会議」が大きな役割を果たしました。被災地支援に取り組む諸団体の交流を毎年実施してきた長野市災害ボランティア委員会は1月25日、第6回長野市域災害支援ネットワーク大交流会を長野市篠ノ井交流センターで実施しました。テーマは「災害時の情報共有会議を体感! 支援を集めよう、つなげよう!」でした。台風災害の発生を想定し、「情報共有会議」で出されたニーズに応える支援活動をどのように進めたらよいか話し合いました。
2週間前に台風で被災し、2,350人が避難所生活
被害想定は、台風による千曲川左岸の決壊で長野市の篠ノ井、更北地区の一部1,366haが浸水し、浸水深は最大3mとしました。浸水エリアの世帯数は10,979世帯、人口2万6,865人に達しています。被災したのは1月11日(土)で、「情報共有会議」が開かれたのは2週間後の1月25日。12か所の指定避難所と5か所の福祉避難所が開設されており、そこで2,350人が避難生活をしているとの想定です。
(1月の台風は通常考えられませんが、台風による被災で開催日の2週間前の発災という設定にしました)

主催者は定員50名で参加者を募集しましたが、実施直前の駆け込み申し込みがあり、60名の参加とスタッフ20名での開催となりました。行政、社協、住民自治協議会、赤十字奉仕団、生協、ボランティアグループなどさまざまな組織の関係者とともに、個人参加が多かったのも特徴です。
会議のスタートにあたり、全員が所属団体と名前を簡単に伝えました。これは、どんな人が「情報共有会議」に参加しているかを「共有」するためであり、また会議のなかで発言しやすくするための工夫でした。


行政(長野市)から現状報告と協力要請
最初に長野市の危機管理防災課が現状を報告。ライフラインの現状やボランティアセンターの開設状況、物資輸送拠点の場所、各避難所の現状などを伝えました。
避難所は段ボールベッドや暖房器具は設置されたものの下水道の使用ができず、通常のトイレは使用不可です。福祉避難所が開設されていますが、本人や家族の意向から各避難所にも要配慮者がいる状況との説明でした。
2週間続く避難生活のなかで身体的・精神的に被災者の負担は増しており、災害関連死を防ぐためには行政だけでは行き届かない面があります。担当者はきめ細かな支援を必要としていることを伝え、ボランティアの力がますます重要となっていると呼びかけました。民間ボランティアの支援・協力への行政からの依頼でした。罹災証明の発行が始まっていることを住民に伝えることや災害ゴミの運搬への協力といった具体的な要請もありました。
行政の職員が行なう災害対策は多岐に渡っており、避難所の運営でも復旧活動でもボランティアの手が必要となります。「情報共有会議」は現時点での状況がどのようになっているかを民間ボランティアが知る上でも、行政と民間が連携する上でも重要な場となっています。被災住民に行政の情報が十分に届け切れていないことから、「罹災証明の発行について伝えて欲しい」という行政からの協力要請は、混乱している被災現場において重要な意味を持っています。
社協からは災害ボランティアセンター運営への協力要請
続いて長野市社会福祉協議会から災害ボランティアセンターの設置と運営の状況について報告がありました。更北地区、篠ノ井地区それぞれで活動するボランティアの人数や対応状況を説明。今後は1日500人、1,000人規模のボランティア活動になっていくことからボランティアセンターの運営スタッフが不足することが伝えられ、サポートする人の確保の協力要請がありました。ボランティアセンターの運営は社協の職員だけでは対応し切れず、5年前の災害対策でも多数のボランティアが運営を支えていました。
具体的には、各ボランティアセンターから各地の拠点に設置したサテライトへマイクロバスや大型車両で送迎するときのスタッフの要請でした。多数のボランティアを受け入れるためには送迎が不可欠で、そのときのドライバーが不足しています。また、災害廃棄物の搬出・運搬ニーズに対応するために軽トラックを提供し運転してくれるボランティアも必要です。この面での活動にも参加してほしいとのお願いがありました。
行政および社会福祉協議会と民間のボランティア団体とが連携する上で、情報共有は不可欠です。「情報共有会議」は行政・社協としての取り組み状況が公開され、民間ボランティアに何をしてほしいかを具体的に伝える場になっていました。
(このシナリオは、5年前の災害時に行なわれた状況を再現するような内容で展開していました)

参加者からも現状とニーズの報告
被災から2週間が経過し、支援活動をしているボランティアのみなさんからも自分たちがつかんでいる現状やニーズの発言がありました。どこにどんなニーズがあるかを出し合うことは、ボランティアグループ同士がつながり連携して解決に向かうことにつながります。被災者と関わるなかで感じた実態の報告で、現状とニーズがクローズアップされました。
Aさんの発言 食事の支援を
400名ほどが避難しており、子どもからお年寄りまでいる。乳幼児や障害を持っている方、外国人もいる。食事は朝と夕方は行政が手配した業者のお弁当が届き、昼はボランティアのみなさんのキッチンカーが対応している。
野菜が不足していて健康面が心配。トイレの場所が遠く、寒い時期でもあるので、なるべく水分を摂らないようにしている人が結構いるし、そのため便秘の人もいる。アレルギーの方で提供された物が食べれないという事態も生じている。避難所の食事の状況を改善したいので、アイデアとご支援をいただきたい。
Bさんの発言 ペットとの避難で困惑
ペットと避難所生活をしている方の困りごと。被災当初は避難所で犬や猫も家族といっしょだったけれど、環境に慣れて来て犬が吠えてしまうため、ほかの方に迷惑をかけることから車の中で避難するようになった。この寒さの中、エンジンをかけたままというわけにもいかないし、狭い室内ではエコノミー症候群などの健康リスクの心配もある。ペットと同伴で避難を続ける方策を教えてほしい。
Cさんの発言 学習支援と居場所づくりが必要
「長野市緊急時における子ども支援ネットワーク」として活動している。避難所の一角に子どもたちの居場所を設置している。ご家族が家の片付けに行くため、日中は小学生の子どもたちと過ごしている。20人くらいの中学生も避難して来ていて、その中の7人が受験を控えた3年生。受験が間近で子どもたちは不安を募らせている。地域の民生児童委員からも学習に集中できる環境でないとの相談があり、学習環境を整えていく必要がある。塾とかに行かれなくなった子どももおり、誰か見てくれる人がいると心強いという話も聞く。在宅で避難していて学校に行けない状態もあり、どこか日中だけでも学べる場所がほしいという声も上がっている。
学習支援や、子どもたちが過ごせる居場所の提案といった支援の方法がほしい。
Dさんの発言 必要な物資をどう届けけるか
住民から聞いたことだが、在宅避難の方で80代と70代のご夫婦で食べ物の調達が難しいとのこと。車が水没してしまい買い物にも行けない。夫の介護もしているので、避難所に取りに行くこともできない。この間、ご近所の方が炊き出しを持って来てくれて、とても助かったとおっしゃっているが、どこで炊き出しをやっているのかもわからないそう。 食材さえあればカセットコンロを用意してあるので、2階で簡単な調理はできる。だがガスも切れてしまって困っているそうだ。在宅避難の方がたくさんいるので、ニーズを聞いて物資を届けられないかなというふうに考えている。皆さんのお力をお借りしたい。
Eさんの発言 洗濯できず2週間同じものを着ている
区長さんと民生員さんの方からご相談を受けたので報告させていただく。 避難所では物資や様々な支援はあるが、被災者が二週間同じ服を着ているのが気になる。洗濯ができず、なかなか着替えをすることができない。車があれば2、3日おきにコインランドリーへ行くこともできるが、経済的な負担がかなり大きい。車を持っていない方、自宅の洗濯機が使えない方の状況もある。何か名案はないか。
もう一つ民生委員の方からで、いろいろな支援に当たっているが自分も被災をしており、息切れが出てきていると言う。高齢夫婦や昼間自宅を片付けている人たちがたくさんいて、2週間もこういった状態が続いており、すごく疲れを感じている。 マッサージなどで疲れを取るようなことをしてくれるボランティアがほしい。血行が良くなるようなアドバイス等をしていただきたいとの相談も受けている。
課題別のグループ討議で解決策を模索
参加者が現状を出し合ったあと、物資支援、食支援、災害ボランティア、ペット支援、子ども支援、洗濯・入浴というテーマごとにグループに分かれ、今後の対応について40分ほど検討しました。
主催スタッフが各グループで進行役を務めました。自由に意見を出し合って現状の理解を深め、ニーズの解決策を探りました。大きな模造紙が用意されていて、気づいたことをそれぞれが附箋に書いて貼り出したり、順番に発言した内容を記録者が文章にして書き出したり、進め方はグループごとに異なっていましたが、参加者一人ひとりの「考え」や「提案」を「見える化」しながら話し合いを展開。
課題別の10人前後のグループ討議であり、自由に発言し合ってニーズの解決策を模索しましが、5年前の活動を思い起こしながら発言する人たちもいました。同時に、この種の会議に参加したのは初めてという人もおり、みんなの声を反映させる「情報共有会議」をどのように進めるかを学ぶ場ともなっていました。
協力支援の輪を広げること
グループ討議のあと、再び全員が集まって各グループで話し合った内容のポイントを発表し、全体で共有しました。
小中学生の学習支援の方策では元教員、大学生、塾の先生に関わってもらい、場所については避難所のなかだけでなく地域の公民館などの活用を検討し、送迎も含めた対応すること、オンラインによる支援を検討することが提案されました。
子どもたちの居場所づくりでは公民館や企業の研修センターの活用があげられました。広く支援協力の輪を広げる発想でのニーズ解決でしたが、そうしたことを可能にするためには日ごろからつながって協力が得られるようにしておくことが大事だと話し合われていました。
ペットの問題ではゲージを貸し出せるという人が参加者にいました。被災者の中には動物アレルギーの人もいます。そうしたことを「声に出せる」ことが大事だとの指摘があり、避難所にペットにかかわる専門の担当者を置く提案がされました。避難所の運営での大切な視点の一つともいえそうです。
食の支援では、避難所でのアレルギー対策として専門的な人とつながることが重要であり、避難所に食のコーディネーターを置くことが提案されました。避難所では栄養のバラスが崩れやすく、避難所の中だけでなく、被災していない食堂等との連携を検討したらとの提案がありました。これも支援の輪を広げることであり、そうした協力を得るためには日ごろからのつながりが不可欠といえそうです。
ボランティアセンターの運営スタッフ不足の解決では、区や町会が関わるようにもっていくとの提案が出ていました。高齢者のことや地理的なことなど地域の様子がわかっているので進めやすいと考えられます。現実的には区長が窓口になりますが、日常的に連携がとれてるわけでないので、やはり日ごろからの連絡ルートが必要との意見が出されていました。

会議の眼目は目の前のニーズをどう解決するか
疲れを癒すための対策として足湯などは美容関係の団体に呼びかける、洗濯の問題ではコインランドリーへ送迎するボランティアを募る、洗濯しなくても済むように下着類提供の支援を呼びかけるなどの提案がありました。
5年前の災害時は、足湯のボランティア、理髪ボランティア、移動式ランドリー車の出動などがありました。専門的なスキルで支援したいと思っている人たちに協力を呼びかけ、それを受け入れる体制がポイントになりそうです。
被災者は気持ちを声になかなか出しにくいので、みんなが集まれる場所に裁縫道具を置き、手作業をしながら話せるようにするなどの工夫をしたいとの提案もありました。被災者が気軽に困りごとを声に出せるような工夫をどうするか、避難所に来ていない被災者の声とニーズをどうつかむかは重要で、「情報共有会議」で検討する大切な要素になります。
被災地支援活動に関わり、またさまざまな研修などに参加してきた人たちが多かったこともあり、体験も交えた意見が活発に交換されました。同時に、個人参加や昨今の災害続発から支援活動に関心を持って参加した人たちもおり、学びの場になったようです。
「情報共有会議」は、行政や社協からの要請、参加者からの発言で明確になったニーズにどう応えるかを掘り下げる必要があります。今回が初めての試みであつたこともあり、活発な討議が展開された一方、前段で提起された課題を掘り下げる点での会議の進め方を習熟する必要もありそうとの声も聞かれました。


「情報共有会議」での話し合いの進め方
休憩をはさんで、後半は全国各地でファシリテーションの指導・普及活動をしている鈴木まり子さん(はままつna net事務局長)が、「情報共有会議」の場を進める上でのファシリテーションについて実践的に説明しました。
初めに3人のグループを作りました。グループを作るときの条件が示され、これまであまり話したことがない人としました。1分間で自己紹介をし、続いて3分間で「情報共有会議の進め方で気付いたこと」を出し合いました。
話し合った内容を全体で共有しました。そのなかで、「話のレベルが高くて付いていけなかった」との声がありました。支援活動を経験している人と初めて参加した人との認識の差が、「情報共有会議」のなかで出てしまったようです。話に付いていけず、そのことをなかなか言い出しにくい場面はよくあることなので、その対応としては質問の時間を設ける工夫や、進行役でなくても理解できない人がいるように感じた人が声をかけて会議の進行を誘導すること(リーダーシップ)が大事だと鈴木さんから助言がありました。支援活動に携わってきた人たちは当たり前のように「災ボラ」「現調」というように略した言葉を使いますが、初めて参加する人たちは何のことか意味がわからないことがあるので、言葉の理解の面でも配慮が必要との指摘でした(災害ボランティア、現地調査の略)。
鈴木さんは災害時の会議の進行というものが特別にあるわけではなく、普段の困りごとの解決の話し合いの延長線上にあると説明しました。有能なファシリテーターが災害対策を検討するその場に必ずしもいるわけではないので、日ごろの町内会など地域の会議で全員がうまく会議を進められるようにしておくことが大事であること、話がずれてしまうこともあるが、それは「ずらす人」がいるからなので、そんなときは「何を話しているか」を明確にして意見を出し合えばよいと説明しました。
ペットの課題で、「日ごろからペットの飼育が大事だ」との意見が出されていたことにふれ、災害時の「情報共有会議」では現在の課題をどう解決するかに集中することの重要さの指摘もありました。「情報共有会議」では否定的な意見も出やすいと経験を語る鈴木さん。食の改善で食堂利用のクーポンを出したらとの提案が出されていたことについても、どんなにいいアイデアであっても、被災時に実際にすぐに実施できるかどうかを考えたとき容易ではなく、「情報共有会議」ではあくまで目の前の課題を解決することに集中するべきであると強調しました。
自由交流でつながりをつくる
最後は自由交流でした。これは「情報共有会議」のキモとも言えるものです。「出会い」から「つながり」になり、支援者がさまざまな活動を連携して行なうことが可能になります。この日、参加者は名前、所属、活動を記入した大きな名札をぶら下げて会場内を移動し、名刺交換をしながら今後の連携を模索しました。
1年前の2月18日に開催した第5回交流会に参加していた人も多く、主催者とのつながりはすでにできていると言えます。主催者の長野市災害ボランティア委員会は平時からつながっていることを重視しており、交流会を重ねてきました。今回もメーリングリストを活用して交流会を告知していますが現在130名(団体・企業等含む)が登録されています。

前回(第5回)は「災害時、私たちがつながりでできることは何か」をテーマにワークショップを行ないました。5~6人のグループで話し合いましたが、このときも鈴木まり子さんが進行役を務めています。
長野市で災害時支援ネットワーク大交流会5回目。「平時のつながり強化」と「自分ができること」 | ナガクル
その前の第4回交流会は「三者連携と災害時の情報共有をどうするか」をテーマにしました(2022年11月27日)。三者とは行政、社会福祉協議会、NPOなどの支援団体のことで、支援団体や行政がいかに情報を共有してきめ細やかな対応をするかを学び話し合いました。
被災に備えて平時から関係性を築いておこう 災害時支援ネットワークの交流会 | ナガクル
今回の模擬「情報共有会議」は、これまでの交流会を発展させ、より実践に近づけた内容として、次の実行委員で企画・実施しました。
主催)長野市災害ボランティア委員会
共催)長野市危機管理課、福祉政策課/長野市社会福祉協議会
協力)長野県NPOセンター/長野県災害時支援ネットワーク/市民協働サポートセンター/長野市緊急時における子ども支援ネットワーク
台風19号災害から5年3カ月。平時からのつながりが重要であることから体制を整えてきた災害時支援ネットワークです。このネットワークが、いざというときに大きな役割を果たしてくれることになります。
取材・執筆 ソーシャルライター 太田秋夫(防災士)


